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「柚衣に謝って」

 翌朝、凛花に「ついて来て」と言われ、連れてこられたのは、浅木くんと話していた外廊下。

 そこには不服そうな浅木くんと、いつも通りの小河くんがいた。

 私たちが着くと、小河くんは教室に戻っていった。
 どうやら、浅木くんを呼び出す役割だったらしい。

 そして、凛花はいきなり浅木くんに詰め寄った。

「ちょっと、凛花?」

 唐突過ぎて、私も困惑してしまった。

 どうやら、私の声は凛花に届いていないらしい。
 ただ真っ直ぐ、浅木くんを睨みつけている。

「どうして僕が、相馬さんに謝らないといけないわけ?」

 その通りだ。
 浅木くんに謝ってもらうことなんて、ないはず。

「一方的に期待して、失望して、柚衣を傷つけたでしょ」

 凛花が言うと、浅木くんは私のほうを見た。

 その目は“僕のこと、話したの?”と語っている。

「……浅木くんのおかげで、自分のことがわかったって……あとは、ここで話したことを少しだけ」

 昨日、結局浅木くんとはどういう関係なのかと問い詰められて、軽く説明した。

 まさか、こうして浅木くんに直接怒鳴り込みのようなことをするなんて、思ってなかった。

 浅木くんは大きなため息をつく。

「くだらない。友情ごっこに付き合ってられないから」
「そうやって、自分は私たちとは違うって態度とるの、やめたら?」

 冷たく言い捨てた浅木くんに、凛花は攻撃力抜群の言葉を投げつけた。

 浅木くんが苛立っているのは、その表情を見れば、明らかだ。

「実際、違うでしょ。僕も相馬さんも普通じゃ」
「一緒だよ」

 凛花は浅木くんの言葉を強く遮った。

 凛花に同じだと言われたことが信じられないようで、浅木くんは固まっている。

「私もアンタも、自分の価値観を押し付けて、柚衣を傷つけた。一緒でしょ。てか、普通ってなに。柚衣は柚衣だもん。普通じゃないとか決めつけて、苦しめるな!」

 浅木くんは答えない。

 後ろで聞くことしかできない私は、凛花の言葉に泣きそうになっていた。

「私は、悪気がなくても柚衣を傷つけた私を許せない。だから、アンタのことも許さない。ぜっ……たいに許さない!」

 凛花の主張が終わって、私たちの間には沈黙が流れた。

 その沈黙を破ったのは、浅木くんだ。

「……相馬さん、ごめん。寄り添えていなかったのは、僕だったみたいだ」

 私は首を横に振る。

「……凛花と話せなくなってから、浅木くんが抱えてきた孤独を、少しだけ理解できた気がする。誰にもわかってもらえないだろう。だったら、わかりあえる人だけでいいっていう気持ち」

 たった数日でも、あの孤独は耐えがたかった。

 それを、何年も抱えてきた浅木くん。

 寂しくて、怖くて。
 仲間かも、と思う人に縋りたくなるのも無理ないと思う。

 それでも。

「それでも私は、わかりあえないって初めから諦めるんじゃなくて、わかりあえるようにしていきたいって思うよ。もちろん、浅木くんとも」

 浅木くんの瞳が揺れ動く。

「ごめん……ありがとう」

 その声は心からの声のように聞こえた。
 少しでも浅木くんに届いたのだと、勝手に安心した。


   ◇


「小河くんっていい人だよね」

 教室に戻る途中、浅木くんはなんの前置きもなく言った。

「でしょ? 自慢の彼氏なの」
「僕も付き合うなら、あんな素敵な人がいいな」
「……え? 待って待って、どういう……え、そっち!?」

 凛花はわかりやすく混乱している。

 それがなんだかおかしくて、私は笑ってしまう。

「ちょっと柚衣、笑いごとじゃないから! 浅木くん! 朔くんはダメだからね!?」

 私たちは遠い。
 遠いから、互いに過ごしやすい距離感を見誤る。

 時には衝突して、すれ違って、離れてしまうこともあると思う。

 それでも私は、少しずつ、お互いにとって心地よい距離感を探っていきたい。

「誰を好きになろうが、僕の自由でしょ」
「だからって、恋人がいる人狙うのはダメ!」

 この二人を見ていると、私たちは大丈夫だと思えてくる。

「柚衣からもなんか言ってよ!」
「強力なライバルが現れちゃったね」
「違うよ、そうじゃない!」


 私たちは、遠くて、近い。