◆
「柚衣に謝って」
翌朝、凛花に「ついて来て」と言われ、連れてこられたのは、浅木くんと話していた外廊下。
そこには不服そうな浅木くんと、いつも通りの小河くんがいた。
私たちが着くと、小河くんは教室に戻っていった。
どうやら、浅木くんを呼び出す役割だったらしい。
そして、凛花はいきなり浅木くんに詰め寄った。
「ちょっと、凛花?」
唐突過ぎて、私も困惑してしまった。
どうやら、私の声は凛花に届いていないらしい。
ただ真っ直ぐ、浅木くんを睨みつけている。
「どうして僕が、相馬さんに謝らないといけないわけ?」
その通りだ。
浅木くんに謝ってもらうことなんて、ないはず。
「一方的に期待して、失望して、柚衣を傷つけたでしょ」
凛花が言うと、浅木くんは私のほうを見た。
その目は“僕のこと、話したの?”と語っている。
「……浅木くんのおかげで、自分のことがわかったって……あとは、ここで話したことを少しだけ」
昨日、結局浅木くんとはどういう関係なのかと問い詰められて、軽く説明した。
まさか、こうして浅木くんに直接怒鳴り込みのようなことをするなんて、思ってなかった。
浅木くんは大きなため息をつく。
「くだらない。友情ごっこに付き合ってられないから」
「そうやって、自分は私たちとは違うって態度とるの、やめたら?」
冷たく言い捨てた浅木くんに、凛花は攻撃力抜群の言葉を投げつけた。
浅木くんが苛立っているのは、その表情を見れば、明らかだ。
「実際、違うでしょ。僕も相馬さんも普通じゃ」
「一緒だよ」
凛花は浅木くんの言葉を強く遮った。
凛花に同じだと言われたことが信じられないようで、浅木くんは固まっている。
「私もアンタも、自分の価値観を押し付けて、柚衣を傷つけた。一緒でしょ。てか、普通ってなに。柚衣は柚衣だもん。普通じゃないとか決めつけて、苦しめるな!」
浅木くんは答えない。
後ろで聞くことしかできない私は、凛花の言葉に泣きそうになっていた。
「私は、悪気がなくても柚衣を傷つけた私を許せない。だから、アンタのことも許さない。ぜっ……たいに許さない!」
凛花の主張が終わって、私たちの間には沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、浅木くんだ。
「……相馬さん、ごめん。寄り添えていなかったのは、僕だったみたいだ」
私は首を横に振る。
「……凛花と話せなくなってから、浅木くんが抱えてきた孤独を、少しだけ理解できた気がする。誰にもわかってもらえないだろう。だったら、わかりあえる人だけでいいっていう気持ち」
たった数日でも、あの孤独は耐えがたかった。
それを、何年も抱えてきた浅木くん。
寂しくて、怖くて。
仲間かも、と思う人に縋りたくなるのも無理ないと思う。
それでも。
「それでも私は、わかりあえないって初めから諦めるんじゃなくて、わかりあえるようにしていきたいって思うよ。もちろん、浅木くんとも」
浅木くんの瞳が揺れ動く。
「ごめん……ありがとう」
その声は心からの声のように聞こえた。
少しでも浅木くんに届いたのだと、勝手に安心した。
◇
「小河くんっていい人だよね」
教室に戻る途中、浅木くんはなんの前置きもなく言った。
「でしょ? 自慢の彼氏なの」
「僕も付き合うなら、あんな素敵な人がいいな」
「……え? 待って待って、どういう……え、そっち!?」
凛花はわかりやすく混乱している。
それがなんだかおかしくて、私は笑ってしまう。
「ちょっと柚衣、笑いごとじゃないから! 浅木くん! 朔くんはダメだからね!?」
私たちは遠い。
遠いから、互いに過ごしやすい距離感を見誤る。
時には衝突して、すれ違って、離れてしまうこともあると思う。
それでも私は、少しずつ、お互いにとって心地よい距離感を探っていきたい。
「誰を好きになろうが、僕の自由でしょ」
「だからって、恋人がいる人狙うのはダメ!」
この二人を見ていると、私たちは大丈夫だと思えてくる。
「柚衣からもなんか言ってよ!」
「強力なライバルが現れちゃったね」
「違うよ、そうじゃない!」
私たちは、遠くて、近い。
「柚衣に謝って」
翌朝、凛花に「ついて来て」と言われ、連れてこられたのは、浅木くんと話していた外廊下。
そこには不服そうな浅木くんと、いつも通りの小河くんがいた。
私たちが着くと、小河くんは教室に戻っていった。
どうやら、浅木くんを呼び出す役割だったらしい。
そして、凛花はいきなり浅木くんに詰め寄った。
「ちょっと、凛花?」
唐突過ぎて、私も困惑してしまった。
どうやら、私の声は凛花に届いていないらしい。
ただ真っ直ぐ、浅木くんを睨みつけている。
「どうして僕が、相馬さんに謝らないといけないわけ?」
その通りだ。
浅木くんに謝ってもらうことなんて、ないはず。
「一方的に期待して、失望して、柚衣を傷つけたでしょ」
凛花が言うと、浅木くんは私のほうを見た。
その目は“僕のこと、話したの?”と語っている。
「……浅木くんのおかげで、自分のことがわかったって……あとは、ここで話したことを少しだけ」
昨日、結局浅木くんとはどういう関係なのかと問い詰められて、軽く説明した。
まさか、こうして浅木くんに直接怒鳴り込みのようなことをするなんて、思ってなかった。
浅木くんは大きなため息をつく。
「くだらない。友情ごっこに付き合ってられないから」
「そうやって、自分は私たちとは違うって態度とるの、やめたら?」
冷たく言い捨てた浅木くんに、凛花は攻撃力抜群の言葉を投げつけた。
浅木くんが苛立っているのは、その表情を見れば、明らかだ。
「実際、違うでしょ。僕も相馬さんも普通じゃ」
「一緒だよ」
凛花は浅木くんの言葉を強く遮った。
凛花に同じだと言われたことが信じられないようで、浅木くんは固まっている。
「私もアンタも、自分の価値観を押し付けて、柚衣を傷つけた。一緒でしょ。てか、普通ってなに。柚衣は柚衣だもん。普通じゃないとか決めつけて、苦しめるな!」
浅木くんは答えない。
後ろで聞くことしかできない私は、凛花の言葉に泣きそうになっていた。
「私は、悪気がなくても柚衣を傷つけた私を許せない。だから、アンタのことも許さない。ぜっ……たいに許さない!」
凛花の主張が終わって、私たちの間には沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、浅木くんだ。
「……相馬さん、ごめん。寄り添えていなかったのは、僕だったみたいだ」
私は首を横に振る。
「……凛花と話せなくなってから、浅木くんが抱えてきた孤独を、少しだけ理解できた気がする。誰にもわかってもらえないだろう。だったら、わかりあえる人だけでいいっていう気持ち」
たった数日でも、あの孤独は耐えがたかった。
それを、何年も抱えてきた浅木くん。
寂しくて、怖くて。
仲間かも、と思う人に縋りたくなるのも無理ないと思う。
それでも。
「それでも私は、わかりあえないって初めから諦めるんじゃなくて、わかりあえるようにしていきたいって思うよ。もちろん、浅木くんとも」
浅木くんの瞳が揺れ動く。
「ごめん……ありがとう」
その声は心からの声のように聞こえた。
少しでも浅木くんに届いたのだと、勝手に安心した。
◇
「小河くんっていい人だよね」
教室に戻る途中、浅木くんはなんの前置きもなく言った。
「でしょ? 自慢の彼氏なの」
「僕も付き合うなら、あんな素敵な人がいいな」
「……え? 待って待って、どういう……え、そっち!?」
凛花はわかりやすく混乱している。
それがなんだかおかしくて、私は笑ってしまう。
「ちょっと柚衣、笑いごとじゃないから! 浅木くん! 朔くんはダメだからね!?」
私たちは遠い。
遠いから、互いに過ごしやすい距離感を見誤る。
時には衝突して、すれ違って、離れてしまうこともあると思う。
それでも私は、少しずつ、お互いにとって心地よい距離感を探っていきたい。
「誰を好きになろうが、僕の自由でしょ」
「だからって、恋人がいる人狙うのはダメ!」
この二人を見ていると、私たちは大丈夫だと思えてくる。
「柚衣からもなんか言ってよ!」
「強力なライバルが現れちゃったね」
「違うよ、そうじゃない!」
私たちは、遠くて、近い。