時は、ふたりを乗せて、ゆっくりと動いている。
 ふたりだけではない、草も、雲も、川も、時とともに動き続けている。


「セキ。わたしね、考えてたことがあるの」
 呉羽の言葉に、セキは、「聞かせてください」と言った。ふたりはいま、都の外の原っぱに並んで座っている。黒曜を待たせているが、もう少しふたりでいたかった。
「ツキモノが、人間を襲ってたのって、巫女王を倒すためだったのかなーって」
 セキは、きょとんとしている。「どういうことですか?」
「ツキモノになる時、『永夜の民』って、みんな穏やかな顔してるから。あと、感情を思い出すんでしょう?」
「たしかに、そうですが……」
「だから、人間の身体を乗っ取って、人間っていいぞーって、巫女王に伝えたかったんじゃない?」
 呉羽の考察に、セキはしばらく考えるようなしぐさをして、
「仮にそうだとしたら、私たちはもう、お役御免ですね」
 と笑った。
「というか、セキはもう永遠じゃないでしょう? これからどうやって生きていくの? まさか、まだツキモノと戦うの?」
「まさか」セキは、驚いたような声を上げる。「もう軍人なんてやめますよ。もともと退屈しのぎで始めたことでしたし」
「退屈しのぎで軍人って……」
 やはり、『永夜の民』の考え方は、いつまでたっても理解できそうにない。
「……ねえ、呉羽さん」
「なあに?」
 セキの方を向いた呉羽の唇に、セキは優しく、自らの唇を合わせる。突然のことに、呉羽は抵抗できず、いやする気もなく、その唇を受け入れた。しばらくして、満足したのか、ゆっくりと離れる。
「呉羽さんからはしてもらえたので、私からも、と思いまして」
 あっけらかんと答えるセキに、呉羽は唇を尖らせる。
「……もうっ、だからって急にしなくてもいいじゃない」
「くふふ、ごめんね、呉羽さん」
 少しは反省しなさい、と言って、呉羽は微笑んだ。
「……これから、何をしようか」
「呉羽さんがやりたいことを」
「セキのやりたいこともね」
 ふたりは、お互いに言い合って、笑い合う。この時間が、何よりも幸せだった。
 
 ふたりは、この世界で、いつまでも笑い続ける。
 死がふたりを分かつ時まで。
 もうすぐ、夜明けだ。