「ねえー、真知」
「なんだよ」
「真知はさ、かっこいいし、嘘つかないし、わがままだけど落とし所はわかってるし、たいせつなことは見誤らないし、手も、こんなにおおきくなって、おとなに、なって」


小さな手を握りしめることはできても、繋ぎ止めることはできない手だ。こんな形だけの、ハリボテのような手は今このとき、真悠の何を守ることができるだろう。

真悠の時間を、生きた日々を、紡いだ言葉を、笑顔を、怒りを、約束を、抱えて、生きてみたい。そうしたら、いつかこの手をまた真悠と繋ぎたいと思える、そんな気がした。


「うまれるまえ、わたしたぶん、こわかったんだろうね。しぬときは、ひとりだから。前のいのちが終わるときのことを、少しだけ覚えていて、だから、手を繋いでうまれてくれるひとを、さがしていて」


浅い呼吸の隙間に紡がれる言葉の糸を解けないように、息を潜めて、耳を澄ました。


「……そんなん、いうなよ」
「いっしょに、うまれてくれて、ありがとう」


あんまり穏やかに笑うから。険しくなくて、虚ろでもなくて、やわらかく、ひだまりに揺蕩うように微笑むから。

ああ、どこにそんな要素があったのか、まったくわからないけれど。真悠は今、安心、しているんだな。


「もう、こわくはないから、つぎはもうひとりでも陽のひかりの下に、あるいていける」
「そう、だな。もう、おまえと双子なんてごめんだ」
「こいびととか、どうー?」
「まあ、考えてやらんこともない」
「きっ、しょ」
「おい」


冗談に冗談で返すと、真悠は喉を鳴らして笑った。はーっと深く息を吐くと、黒い眼が辺りをきょろりと見渡す。

おれのそばに控えている両親の姿をようやく目にとめた様子だった。


何かを探しているように見えた。

きっと、やさしくて、そこに付随するものの影響を顧みなくて、底抜けの思いやりを持った真悠のことだから。

言葉を、探しているのだろう。

もういいよ、と言ってやろうとくちびるを開こうとしたとき、先に空気を震わせたのは真悠だった。


「また、ね、まち」


ひとりであるいていけると言うくせに、また、と残すやさしさは残酷なほど、鋭利で。

ベッドの向かいにあるモニターの数値が尽きる前に、握った手とは反対の手を真悠の頬を伸ばす。

ごめんな、と口にしたくて。でも、最後に届くのなら、別の言葉が良いだなんてわがままを許してほしい。


「また、な。真悠」


あの日の頬の痛みは、ここに、置いていけますように。