「あるかもしれないじゃん、一生の思い出にあるような素敵なものがさ。この路線にも」
彼女の言葉が、なんだか、ひどく切実に聞こえて──僕は、無言で頷いた。
「そうだね、あるかもしれない」
「罰ゲームの覚悟は?」
「うっ」
維麻は罰ゲームが好きだった。
それはパピコ半分この刑とか、一緒に冒険の刑とか、とうてい罰ゲームにはならないものばかりだったけれど。
「よーし、決めた」
「……謹んでお受けします」
「和也。きみはこの寂れた登山鉄道で一生忘れ慣れないレベルのすーっごく素敵な思い出になる場所を、私と一緒に見つけてください」
「難易度高っ!」
「罰ゲームだから当然でしょ。そのかわり、ちゃんと見つけたら──」
「見つけたら?」
維麻が、とびきりのイタズラを思いついた笑顔で僕の顔を覗き込む。
「……あの手紙、きみに返してあげる」
「い、」
いいね。
いいの?
いらないよ。
今更?
──どの言葉を吐き出すべきかわからなくて、ぐっと喉がつまった。
「ふふふん、黒歴史を握られている気分はどう? きみの誠意によっては、ちゃんと返してあげます」
黒歴史って。
別に、そんな風には思っていないけれど。
でも、たしかに、あの手紙がうっかり誰かの目に触れたら……と思うと、かなり恥ずかしい。
「……維麻、性格悪くなった?」
「そう? まあ、色々あったからね」
かつての維麻だったら、勝ち誇ったように大笑いしてただろう。
目の前の美少女は、にまっと楽しげに笑うだけ。
それが余計に、維麻の大きな猫目を魅力的に見せた。
「まあ、どうせ僕に断る選択肢はないんでしょう」
「もちろん。ふふ、いい罰ゲームだ。……死ぬまでの暇つぶしには、ちょうどいいね」
喉につまったものが、つめたく冷えて身体の中に落下してきた。
聞き捨てならないセリフが聞こえたのだから、当然だ。
なんだよ、死ぬまでのって。