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翌日、僕たちは昨日と同じ時間を楽しんだ。
揺れる列車に、僕たちの笑い声が響いていた。
電車の走行音もパンタグラフの擦れる音も車窓の景色すら気にならないことも、こんなに笑うことも、普段の僕からしたらありえない。
けれど、維麻の隣にいることだけが当たり前のことに思えた。
寝不足気味ではあったけれど、やっぱり維麻と過ごす時間はあっという間だった。
「ねえ、和也は本当に電車に乗ってるだけなの?」
「そうだよ、乗ってるだけ」
「観光も、お散歩もなし?」
「まあ、たいていはね」
観光とお散歩が維麻のなかでどうやら別物らしいのがおかしくて、僕は思わずこみ上げてくる笑いをこらえるのに必死だ。
もちろん、隣に座る維麻にはバレてしまって、不満げに睨み付けられる。
上目遣いに頬を膨らませている顔には、やっぱり幼い頃の面影があって。
「ねえ、和也。きみ、今、私のこと笑ったでしょ」
「ごめん」
それと同時に、気がついた。
今の彼女は、僕よりもずっと背が低い。
僕自身、クラスの中で大きいほうでもない。
記憶の中の維麻は、僕よりも少しだけ背が高かったはずだ。僕らの間にある共有できなかった時間が、僕らの背丈の違いとして表れている気がした。
維麻が僕の手紙への返事もなく姿を消してからの日々。
そんなものはなかったかのように、維麻の隣にいることは僕にとって自然なことのように思える。
「観光はともかく、お散歩って」
「いいじゃん。お散歩」
「目的もなく歩くって、変なかんじなんだよね」
「……目的って、そんなに大切かなあ」
「僕が言うのもなんだけど、あったほうがいいものなんじゃない?」
「そんなものかなぁ」
また、寂しそうな横顔。
僕が声をかけようと息を吸ったタイミングで、維麻が口を開いた。
「別にいいけどさ。せっかく出かけるなら、色んなこと体験すればいいのに」
「体験、って言ってもなぁ」
「そっちは計画立てるの、得意なんでしょ? 何事も経験っていうじゃん」
僕にとっては、始発から終点まで乗車して見聞きすることこそが「経験」なのだけれど。
それを包み隠さず伝えると、維麻は不思議そうに首をかしげる。
打ち明けた僕の乗り鉄趣味を、維麻は馬鹿にすることも軽んじることもなかったけれど、やっぱり少しばかりの食い違いは発生するのだ。
そりゃあ僕だって、手頃で有名な観光名所でもあれば、時刻表の隙間に立ち寄ることもあるのだけれど。
「もったいないよ、ただ電車に乗ってるだけなんて」
「んー……そんなこと言っても」
「いいじゃん、ふらり途中下車の旅。思い出、作ろうよ」
「このあたりに思い出になるような特別な場所なんて何もないよ」
何の気なしに呟いた、僕の言葉。
「始発駅があって、終点駅があって。その間にめぼしい観光名所も繁華街もない。目的地になるような場所がない……そういう路線なんだ」
それが維麻を憤慨させた。
「それ、なんかやだ」
頬を膨らませて、唇を尖らせて。
なぜか泣き出しそうな顔で、そう言った。
「……ごめん」
「とりあえず謝るの、昔からの悪い癖」
「ご──」
謝りたいという態度を示すための謝罪の言葉を突っぱねるのも、維麻の悪い癖だよ──とは言えなかった。
「許さないもん」
ほら、でたよ。
維麻はこうやって、僕をいつだって振り回す。
分厚い電車の時刻表通りに電車がやってくるのが好きだ。
そんなふうに計画通りにものごとが進むことに無情のよろこびを感じる僕が、維麻みたいな行き当たりばったりの、気まぐれとイレギュラーが女の子の姿になったみたいな子のふくれ面に──どうして、こんなに心がずくずくとするのだろう。
「なんだよ、許さないってさ」
「見つけてよ」
み、つ、け、て、よ。
ゆっくりと動く唇に、僕は目を奪われる。
「この路線にある素敵な場所、見つけてよ」
素敵なものを、探そうよ。
維麻は言った。