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ゴールデンウィーク明けの学校は、浮ついていた。
僕たち三年生の教室はさすがに受験モードに移り変わろうという雰囲気がある。
浮かれたざわめきとお互い探り合うようなチクチクした囁き声が混ざり合う汽水域に、僕は沈んでいた。
昨日ベッドの中で延々と調べていたことを頭の中で何度も復習する。
──激情進行性脳機能不全症候群。
人間の感情の昂ぶりが、脳機能を破壊していくという悪夢みたいな病気だ。
維麻が発症した病気について、わかっていることはあまりにも少ない。
発症するのは、何百万人にひとり。
原因も治療法も、現在はわかっていないそうだ。
だから、この病気に対してできることは、なるべく感情を動かさずに生活することだけ。残りは脳や身体の機能低下という、症状の進行にあわせて出てくる不調に対応することしかできない(対症療法、というらしい)。
そんなの、死ぬのを引き延ばしているだけじゃないか──と、言いようのない胸の苦しさに、とうとう昨夜は一睡もできなかった。
「きゃー、かわいい!」
隣のクラスの女子が、甲高い笑い声をあげた。
それに釣られたように、女子たちが騒ぐ声がする。
誰かがキャラクターグッズの新作をスクールバッグにつけてきたか、あるいは彼女たちの「推し」のグッズでも見せ合っているのか。
……激情。
そう呼べるようなものではないかもしれないけれど、感情の昂ぶりには間違いないだろう。きっと、維麻は彼女たちみたいに無邪気に声をあげて笑うことはできない。
この病気を発症してからの平均余命は、五年。
維麻は、その五年目を生きている。
あくまで「平均」だから、その五年から大きく外れて長生きする患者もいるようだ。もちろん、その逆も。
……維麻に残された時間は、わからない。
きっと、このクラスにいる十五才たちとは比べものにならないくらいに、短い命であることだけがハッキリしているわけだ。