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 レースのカーテンが閃く。
 陽だまりが眩しい。
 爽やかな風が吹き舞うなか、僕はそっとベッド脇に転がった写真を数枚、拾い上げた。

「へぇー。まさか、ここまでとはねー」

 卒業式、と書かれた立て看板の真横で、お兄さんとお姉さんが並んでピースしている写真。
 その手には卒業証書と卒業アルバムが握られ、二人とも嬉しそうに微笑んでいた。
 二人の間には妙な距離があるが、万が一にも手が触れ合わないように、とか考えてるんだろう。触れたくらいじゃ大丈夫なのになー。


 遊園地で、マスコットキャラクターと一緒に撮った写真。
 初めて会った時よりは、お兄さんもお姉さんも成長している。大学生、といったところか。私服も大人っぽくなっているけれど、満面の笑顔でピースしている姿からは、あまり変わった印象は受けない。
 変わらず二人の間には妙な距離があるけれど、その表情は喜びに満ち溢れていた。


 満開の桜が咲き誇る、清水の舞台からの眺望を背景にした写真。これは自撮りというやつか。さっきよりは二人の距離が近いが、それでもどこか微妙に離れている。
 けれど、相も変わらず二人の笑顔からは溢れんばかりの幸せが感じ取れた。


 また、写真を拾い上げていく。


 小さなアパートの一室での写真。お兄さんの21歳の誕生日らしい。
 ケーキを挟んで、二人が笑っている。


 顔を真っ赤にしてそっぽを向いたお姉さんの写真。「初大喧嘩記念日」と写真の後ろに書かれている。バカップルか。


 緊張した面持ちで、どこかの家の前に立っているお兄さんの写真。また写真の後ろを見れば、「両親への挨拶の前に」と書かれている。


 純白のドレスに身を包んだ、お姉さんの写真。くしゃりと笑うその目元には、涙が浮かんでいる。


 赤ん坊を抱っこしている、お兄さんの写真。これまた破顔した表情で、僅かに目が潤んでいる。


 和装に身を包んだ小さな子どもと、お兄さんとお姉さんが並んで笑っている写真。七五三らしい。


 ランドセルを担いだ、子どもの写真。笑った目元がお兄さんとそっくりで、小柄で華奢なところはお姉さんそっくり。


 レジャーシートの上で、赤ん坊を抱っこしたお姉さんと、ウインナーをくわえた子どもが笑っている写真。

 
 さらに、風であちこちに散らばった写真を見渡す。


 セーラー服に身を包んだ少女と、お姉さんの写真。


 遊園地で変顔をして笑っている少年と、お兄さんの写真。


 驚いた表情のお姉さんと、「結婚20周年」と書かれたメッセージカードが添えられた花束を抱えて恥ずかしそうにしているお兄さんの写真。


 清水の舞台をバックに、家族4人で自撮りしたらしい写真。


 大学の校門の前で、涙を浮かべているお兄さんと、苦笑している少女の写真。


 真新しいスーツに身を包んだ少年と笑い合うお姉さんの写真。


 真っ白なドレスに身を包んだ女性を、涙ぐみながら見守るお兄さんの写真。


 赤ん坊を抱っこする男性のそばで、ぬいぐるみのおもちゃを振っているお姉さんの写真。


 この家の前で、勢ぞろいして笑っている家族の写真。


 まだまだあった。
 いったい、どれだけあるんだろう。
 とてもじゃないが、数えきれない。
 その部屋は、写真と幸せに満ち溢れていた。
 
「まったく……すごいよ。お兄さんも、お姉さんも」

 僕は、ベッドに近づく。

 最初に会った時よりも随分と皺が増えたお姉さんが横たわっていた。
 もう、生気はない。

 その傍らには、同じように皺の増えたお兄さんが、お姉さんに縋り付くようにして伏せっていた。


「約束通り、命はもらっていくからね」


 80年の時を超えて繋がれた手の上には、涙が光っていた。