美術に行く前、狩谷が俺の席にやってきた。
「何」
「私、何故か玉藻ちゃんに避けられてるみたいなの。かわりに煌雅が守ってあげてよ」
「なんで俺」
「せっかくのチャンスだよ。いいから行ってよ。絶対ひとりにはできないから」
どうやら、狩谷は俺が春瀬のことが気になっているのを分かっているらしい。
「はい、玉藻ちゃんの荷物持って。女子トイレの前で待ってて」
「いや、流石に女子トイレはキモくない。荷物が教室にあるんだから教室で待ってればいいだけでしょ」
「教室に来るまでになんかあったらどうすんの」
「過保護かよ」
俺がどれだけ言い返しても、狩谷の瞳は俺を向いたまま変わらないし、そもそも立たせてくれない。
俺は、ため息をつくと狩谷を見つめ返した。
「分かったよ。……俺が守る」
そう返すと、狩谷は満足気に微笑んで他の友達と教室を出て行った。
トイレの前に着いたのと殆ど同じタイミングで春瀬が出てきた。
「………朝霧くん?」
そりゃそうだろう。
知り合って初日の男がトイレから出てくるのを待っていたらキモいだろう。
俺は、当たり障りのない言葉で経緯を説明する。
「朝霧くんは優しいね。断ってもよかったのに」
微笑んでそう言った春瀬は、次の瞬間には悲しそうな顔で黙り込んだ。
なんでか分からないけど、俺のことを知ってた女の子。
可愛い他人の知り合いができた。
これからは、春瀬に俺を見てもらえるように努力しよう。
もう、春瀬にこんな悲しそうな顔はさせない。