「おはよう」


そう言って教室に入ってきた子は、全然知らない子だった。


クラスを間違えた?

でも、あんなに可愛い子が学校にいたら噂になってるはず。


隣にいた狩谷も知らないらしい。


一瞬彼女と目があったかと思うと、こちらへ近づいてきた。


「おはよう、煌雅。なんで連絡くれなかったの?」


近くで見ても可愛いし、声まで可愛い。

でも、今はそんなことより内容だ。


こんな可愛い子、俺は今日初めて見たのに“煌雅”?


「えーっと、ごめん、誰かな。俺、記憶にないんだけど」


本心から放った言葉だった。


過去に会ったことがあるなら、もう口説いてる。


すると、彼女はすごく傷付いたような顔をした。


「誰? 煌雅の知り合い?」


隣から、腐れ縁の狩谷が聞いてきた。


「いや、全然知らない子」

「そうなの? いや、それにしても可愛い子だね。名前なんていうの? もしかして転校生?」


狩谷は、とにかく可愛い女子が好きである。

話し掛けられたのは俺なのに、俺を無視して彼女に詰め寄る。


「ねぇねぇ、名前なんていうの?」


すると、彼女はすごく傷ついたような顔で答えた。

狩谷は気付いていない。


「春瀬玉藻、です………」


名前も可愛い。


その時、俯いた彼女───春瀬の口から掠れた声が聞こえた。


「那古ちゃん…………。本当に私のことわかんない?」


狩谷はまだ名乗っていない。


でも、それより、春瀬の寂しそうな表情が瞼の裏に焼きついた。