ぼっち症候群

教室で話していたら、春瀬の目からこぼれ落ちたのは涙だった。


「保健室行く?」


心配になって春瀬に向かって手を伸ばすと、避けられてしまった。


「っ、ごめんっ」


そう言って、春瀬は教室を飛び出していった。

これは、明らかな拒絶だ。



俺は、すぐに春瀬を追って教室を出る。


追い付くと、春瀬に歩み寄る。


「っ、春瀬。本当に大丈夫? 俺が何かしたなら謝る。だから、なにがあったのか教えて」

「なにもない。大丈夫」


俺の言葉に答えた春瀬は無理矢理笑っているように見えた。


「ね、大丈夫じゃないよね。そんな顔して」


伸ばした手が頬に触れそうになった瞬間、春瀬が顔をあげた。

目が合って、そして、大粒の涙がこぼれ落ちるのが見えた。


「大丈夫。何があっても朝霧くんには関係ない。もういいから、ほっといて」


さすがに、二回も拒絶されたら傷付く。


俺の横をすり抜けていった春瀬は振り返ることなく、階段を駆けおりる。


向かう先は、どうせ保健室。

解らないけど、分かる。


保健室まで行くと、ちょうど先生が出てきたタイミングだった。


「先生、春瀬来ましたか?」

「朝霧か。もしかして、泣かせたのお前か?」

「……はい、多分そうです」

「おいおい、多分ってなぁ………。何があったのかは知らないけどちゃんと話し合えよ」


先生は俺の頭を軽く小突くとその場から立ち去っていった。


保健室に入ろうとして扉に手をかけると、聞こえてきたのは嗚咽。

扉に背中を預けて、俺は座り込む。


「ぁ、はあ、はあ………? どうして? なんで? こんな夢なら終わってよ!」


次第にその嗚咽は粗くなっていく。


俺は、つい保健室に飛び込んだ。


ねえ、春瀬。こっち見て笑ってよ。
そんな声で泣かないで。


「ねえ、春瀬。本当に大丈夫? 落ち着いて。俺がいるから」


布越しに春瀬の頭を撫でる。


「………こんなに辛い思いするくらいなら、死んだ方がましなのに。なんで、なんでちょっとの夢も見させてくれないのっ?」


この子は何と闘っているのだろう。
わからない。
俺にはまるでわからない。


「死んだ方がましだなんて言わないで」


君だけの命じゃない。
俺にとっても大切だ。
きっと、狩谷やお母さんにとっても。


「なんで、なんで煌雅はずっと追いかけてくるのっ? だって、私、何回も拒絶した」


俺は、言ってもいいのかな。
君に、今ここで。


「俺は、春瀬が好きだから………っ」


その声はあまりにも震えていた。

でも、それ以上に震える春瀬を見て俺が守ってあげたくなった。

そっと、抱き寄せる。