突然、春瀬が倒れてビックリした。

焦っていて、つい自分の家まで連れてきてしまった。

仕方がない。

家を知らないわけだし。


とりあえず、起きたときに何か口に含めるよう、食べやすいお粥を作る。

取り皿と一緒に部屋まで持っていく。


扉を開けて部屋に入ると、春瀬は起きていた。


「………! ごめん。家分かんなかったからかってに俺の家連れてきた。起こした?」


俺は、即座に謝罪をする。


「食べられそう? 一応お粥持ってきたんだけど」


春瀬は申し訳なさそうに微笑んだ。


「うん、ごめんね。ありがとう」


謝罪と、そして感謝。

謝罪だけだったらもしかしたら嫌な顔をしたかもしれない。

この子とは合う。


「いいや、大丈夫だよ。春瀬こそ大丈夫? 熱測ってみ?」


俺はそう言って、体温計を渡す。

その間にもお粥の準備をする。


ちょうどよそい終わったときに、ピピピピッ、と電子音が鳴った。


体温計が示す数値は[37.9℃]

どうして外出しようと思ったのか不思議なくらいだ。


「まだ熱あるから休んでって。家に電話して迎えに来てもらおう?」


俺がそう提案すると、春瀬は表情を曇らせた。


「私、一人暮らし。親の連絡先は知らない。住所しか」


驚いて、なんて返そうかと思っているうちに、俺の口は考える間もなく動いた。


「あー……。じゃあ、今日泊まってきなよ。そんなフラフラのままひとりで過ごされる方が怖いし」


春瀬は目をまん丸に見開いて俺を見る。


「大丈夫。変な心配はしなくても、何もしないって誓うから。着替えはどうする?」


誓うって言っても、分からない。


こんな狭い部屋に、好きな女とふたりきり。

しかも、好きな女は今、“ベッド”の上。

分からない………わからないけど、なけなしの理性で耐えるしかない。

嫌われたくはないから。