きみは、月の光

 寒くて身体が震えているというのに、昴と繋いだ手だけは温かくて、綺麗な景色を見て心まで満たされていく。すれ違うカップルたちも、特別な夜に、イルミネーションの下で二人だけの写真を撮っている。
 こんな夜が、『夜行症』になった私にも訪れるなんて、夢のようだった。淡い雪のようにすぐに消えてしまうのではないかと怖くるほどに。
「着いたよ」
 やがて昴がピタリと足を止め、前方に広がるとある公園を指差した。
「わあっ」
 公園は、街中にある広々とした空間に、芝生を敷き詰めた都会の公園で、周りは紅葉の木に囲まれていた。紅葉の木と、一部地面にも色とりどりのイルミネーションが施されており、一瞬で心奪われるほど美しかった。
 私は寒さを忘れて昴から手を離し、一心不乱に公園の方へと駆けていった。
「そんなに走ったら転けるよー!」
 昴が父親みたいなことを言いながら、私の方まで近づいてくる。
「だって、こんなにきれいなの、初めて見たもん!」
「そっか。それなら連れてきた甲斐があるよ」
 私が心底喜んでいるのを見て、昴は照れたように頬を掻いた。
 私たちは二人で並んで写真を撮る。暗くて綺麗に顔を写すことはできなかったが、これはこれで良い思い出になりそうだ。
「そういえば、イルミネーションの光は大丈夫なの?」
「うん。直接身体に浴びるものじゃないから平気。日光とか、スポットライトとか、そういうのがダメなだけで。あ、明るい電気もダメかな」
「そっか。音楽室もいつも薄暗くしてるもんね」
 昴は私が病気の話をする時、決して私を「かわいそうな人」という目で見ない。同情もしないし、哀れみもしない。だから私は昴には素直に自分の病気のことを話すことができた。
 一通りイルミネーションを満喫した私たちは、公園の椅子に腰掛ける。等間隔にならんだ椅子に、カップルたちがここぞとばかりに座って、幻想的な公園の景色を見ている。どの恋人たちもみな、頬が緩んで心底幸せそうだ。だって今日は、クリスマスイブだから。特別な夜。特別な人と、まばゆいほどの光に包まれて、幸せでないはずがない。
 昴が、私と肩が触れ合うほどの位置に座っている。私の心臓の音が、彼の耳に聞こえはしないかとドギマギしているのを、彼は知らないだろう。
 暴れないで、私の心臓。
 ドクドクと不整脈みたいに激しく脈打つそれが、とても苦しい。苦しさに耐えるように、私は両手を膝の上で握り締め、身を固くする。