その後、サラナ、エルダ、グリリアの三人は、互いの事について、暫く喋りあった。
エルダは、カルロスト連邦国を発った後の事。
サラナは、母が貴族に連行された事。
エルダは、再びサラナの話を聞いていて、一つの疑問を抱いた。
何回か聞くうちに、その仮説に、信憑性が増してきた。
それは………………
コンコンコン。
突然、家の扉を叩く音が聞こえた。
「ギニルだ。グリリアは居るか?」
それを聞いたグリリアは、「済まない、少し席を外させて貰う」と言って、早足で玄関へと向かって行った。
二人だけになった。
不意にエルダは、サラナの顔が視界に入った。
エルダの目線は、そこで止まった。
サラナの顔がサーッと青くなり、冷や汗の様なものが顳顬からつーっと流れている。
(何故此処にギニルが? 彼奴は確か、王城で国王に殺された筈だが……)
サラナが、必死に頭を回した。
安置所に運ぶ時には未だ、僅かに息があった
だが、どうもあの状態から生還するなど、信じ切れたものでは無かった。
だが、玄関から聞こえたあの声は、確実にギニルの声だった。
どうする。
勿論ギニルは、サラナの顔を知っている。
そして、国王の命令内容を知らない。
なので、サラナを見た時に、何をするか、判ったものではない。
だからといって、エルダやグリリアがいる中、公に国王の命令内容を話すのは、最も言語道断であった。
兎に角、出来るだけ自然と、“ギニルを知らない体”で話を円滑に進める事が、この状況での最善手であろう。
だが抑も、何故ギニルは、このグリリアの家に来たのか。
ギニルとグリリアの共通点とすれば、“多分”お互いが同じ、サルラス帝国人であると云う、確証の無い想像。
もしそうであった場合、二人が何かしらの共謀者であったとか。
………一周回って、私の解放の協力者にもなり得るのか。
そう云った話は、ギニルと二人になった時にしよう。
「済まないね、待たせてしまって。」
そう言ってグリリアは、階段を上がってきた。
「いやいや、、全然良いよ。」
グリリアに、エルダが優しく声をかける。
そして、そのままグリリアは、さっき自分が座っていた場所に座り、それに後続して、ギニルが、階段を上がってきた。
ギシギシと階段の軋む音が聞こえる。
それと同時に、サラナの緊張も高まった。
国王の命令を悟られてはいけない。
例えギニルであっても。
そうして階段を登り終えたギニルは、初めて会うエルダに対して、軽く会釈をし、グリリアの隣へと進んでいた時。
ギニルの視線が、ある一点で止まった。
眠っている少女である。
暫くそこで動きを止めた後、ギニルは、少女が起きた時、極力視界に入らない様な場所に座り込んだ。
明らかに可笑しな動作であったが、エルダやグリリアは、あまり気に留めていない様な様子であった。
中々ギニルとサラナの視線が合わない。
サラナはギニルと目線を外しているが、ギニルは、他の事に気が向いているようだった。
それが何なのか。
サラナは考えたが、一向に解らなかった。
「は、初めまして。ギニル・フルーブと申します。」
そう言ってギニルは、少しエルダの方を向いて、深く一礼した。
「ご丁寧にどうも。エルダ・フレーラと申します。よろしくお願いします。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
そう言って二人は、固く握手を交わした。
その様子を見ながら、サラナは思った。
王城で共に働いていた時のギニルのイメージは、何でも熟す、模範的な人間であった。
周りからの待遇を鑑みると、間違い無くギニルは、サルラス帝国出身の人間だった。
グリリアでの言う所の、ギニルとグリリアは、出生国の差異が無いのだ。
同郷なのだ。
だが、グリリアはビルクダリオを救出する立場であり、ギニルは、そのビルクダリオを奴隷と扱う立場である。
幾ら同郷と言えど、その立場や価値観は正反対。
関わることの無い筈の。関わったとしても対立は免れない関係の二人が、何故こうして、同じ空間で座っているのか。
サラナは、益々頭が混乱してきた。
いや、先ず考えなければいけないのは、この、一つでも口を滑らせたり、会話の中で墓穴を掘ってしまわないようにする事だ。
先ず、サラナとギニルが、政府の人間である事を悟られてはいけない。
特にサラナは、エルダにそれがバレれば、国王命令が失敗となる。
そうなれば、自身の命が危ない。
ギニルに限って無いとは思うが、うっかり口を滑らせてしまう事が無い様に。
サラナは必死に、最善手を打てる様に願った。
「…………で、」
エルダが突然話し始めた。
「ギニルさんとグリリアは、一体どの様なご関係でいらっしゃるのでしょうか?」
「「………………えっ?」」