「小腹、空かない? 食パンのミミがあるし、ラスクでも作ろうか」
「いいね」

 なかなか眠れなくて、そのうち喉が渇いたと思って台所に行くと、お母さんとお父さんの声が聞こえてきた。

 ラスク。僕も食べたい。

 でも、起きていることがバレたら、きっと怒られちゃう。
 さっき、早く寝なさいって言われて、僕は部屋に行ったんだから。

 でもでも、お母さんのラスクは美味しいから、どうしても食べたい。

「湊、まだ起きてるかな」

 悩んでいると、急に僕の名前が出てきた。
 こっそり聞いているのがバレたのかと思って、ドキッとする。

「ラスクができたら、様子を見に行ってみよう」

 お父さんが答えると、僕はすぐに部屋に戻った。
 ベッドに潜り込んで、お父さんたちが来てくれるのを今か今かと待ち望む。

 すると、部屋の外から足音が聞こえてきた。

 できたんだ。
 ああ、楽しみだなあ。

「湊、起きてるか?」

 呼びに来てくれたのは、お父さんだ。

 でも僕は、すぐに返事をしなかった。
 だって、そうしたら起きていて、ラスクを楽しみに待っていたって、気付かれちゃいそうだったから。

 もう一回呼んでくれたら、返事をしよう。
 二回目で起きたら、怪しまれないだろうし。

「起きてた?」

 あとから、お母さんの声が聞こえてきた。

「いや、寝ているみたいだ」
「何度も声をかけて起こしちゃうのも可哀想だし、二人で食べましょう」

 あ、あれ?
 違うんだ、僕、起きてるんだ。

 どうしよう、このままだと、僕の分がなくなってしまう。

「……はあい?」

 僕が布団から顔を覗かせると、二人は少し驚いた様子を見せながらも、笑っていた。