「いやいやいやいや、さすがに鉢かづきはやめとけって」

「何でだよ。あんな良い女他にいない」

「いるだろ普通に! だっておかしいだろ。何なんだよあの鉢は! ていうか顔見えないのにどこが好きなんだよ」

「顔が見えないことなんて些細な問題だ」

「全くもって些細じゃねえ……」


初瀬さんのことが好きだという僕の気持ちを、友人や周りは全く理解してくれる気配がなかった。

所作も手も声もあんなに綺麗なのに、良さがわからないとは。


「お前たちがそんな風に言ったりするから、僕が口説いても初瀬さんは『私みたいな化け物みたいな女なんて~』だの『身分が違う~』だの困った顔するんだ」

「口説いてんのかよ! つーか翔、それフラれてんじゃねえか」

「一回や二回フラれたところで諦めないよ」

「まあそりゃ、これだけイケメンで金もあるやつがそう簡単に自信無くさねえか……。でもこの学校の九割の女子が泣くぞ? 中条家で唯一、まだ恋人も婚約者もいない翔があの鉢かづきにお熱だなんて……」



そんなくどくど続きそうな友人の話の途中。

僕はふと外を見ると、学生寮の方へ向かう初瀬さんの姿を捉えた。西日を反射する白い鉢は、やはりよく目立つ。


「あ、初瀬さんだ! ごめん、今日三回目の告白しに行くから話はまた今度ね! また明日!」

「おい! てか今日だけで三回目って、お前フラれた回数一回や二回じゃねえだろ!」


友人の突っ込みを背中で受けながら、僕は初瀬さんのいる学生寮の方まで走った。

彼女は寮で暮らしつつ管理人の仕事もしているので、掃除のために表に出てきていた。

初瀬さんの姿を見て、一気に気持ちが上がる。
やっぱり好きな人には、放課後にも会いたい。いつだって会いたい。



「初瀬さ……」