中高大一貫私立・中条(ちゅうじょう)学園。
国内でも有数の、裕福な家の子息令嬢が集う学校だ。

そんなこの学校で、毎朝お決まりの風景がある。


「キャ〜っ!! 皆、翔様がいらっしゃったわ!」

「ああ……今日も今日とて麗しい」

「中条家四兄弟最後の独り身。ああ、何としても婚約者の座を勝ち取りたいわ!!」


有り得ない数の女子生徒が、登校してきた一人の男子生徒を出迎える。その男子生徒は学園の理事長の息子、高等部二年の中条(ちゅうじょう)(しょう)だ。

傍から見ればその様子は、人気アイドルのライブか何かだろう。

そしてその中条翔とは……僕のことである。


「おはよう」


女子生徒たちに当たり障りのない笑顔を向ければ、周囲はまた色めき立つ。

一歩進むたびに、自己紹介されたりラブレターを渡されたり……教室に行くのも一苦労だ。

だけど、そんなのは日常。代わり映えのない朝の一コマ。

ようやくたどり着いた教室の自席で僕はようやくひと息ついた。

教師にきつく咎められるため中までは入ってこないが、未だにたくさんの女子たちが教室の中を覗いている。僕はいつも通り、気にしないふりして外を眺める。



……そんな女子たちが、にわかに静まりかえった。
かと思うと、今度は先程僕に向けていたのとは違う質のざわめきが生じる。


あ、来たな。

僕はちょっと浮き足立って教室の入口の方に目を向けた。
野次馬たちが怯えたように散っていくのと同時に、一人の女の子が教室に入ってくる。


「おはよう、初瀬(はせ)さん」

「おおおはようございます、中条様」


少し前にこのクラスにきた、隣の席の初瀬さん。

細く白い手足に、黒く艶のある長い髪。僕に挨拶を返す少し上ずった声は、鈴を転がしたように澄んで美しい。
薄い唇は桜色で、微笑むとわずかに口角が上がる。そして鼻から上をしっかり隠す、頭にかぶった鉢。