帥の宮様へ

これが貴方様に書く最後の手紙です。
これ程までに早くに逝くなんて、貴方様はやっぱりあのお方と兄弟なのだと寂しく思います。貴方様と二人歩いた茨の道は、私にとって幸せな道でした。
浮き名ばかりが有名な私を、貴方様が見つけてくれて嬉しかった。
私を愛してくれた貴方様の傍にいれて嬉しかった。
私は貴方様に幸せを与えられていたでしょうか?

─今はただそよそのことと思ひ出でて忘るばかりの憂きこともがな。

─捨て果てむと思ふさへこそかなしけれ君に馴れにし我が身とおもへば。

─かたらひし声ぞ恋しき俤はありしそながら物も言はねば。

─はかなしとまさしく見つる夢の世をおどろかでぬる我は人かは。

─ひたすらに別れし人のいかなれば胸にとまれる心地のみする。

─君をまたかく見てしがなはかなくて去年は消えにし雪も降るめり。

貴方様を嫌いになるくらいの、悪い思い出があったら良かったのに。
忘れてしまおうと、そう思うことさえ切なくて辛いのに。
語り合ったことが恋しかったのに、今は何も言ってくれないのね。
夢の如き世なのに、この世から目を醒まさずにいる私は人と言えましょうか?私もあの世に連れて行ってくれたらよかった。先に別の世界に旅立ったのに、貴方様はまだ私の傍に留まっているように想ふ⋯。

─なき人のくる夜ときけど君もなし我がすむ宿や玉なきの里。

今宵は、亡き人が訪れる夜だと聞きますけれど、なのに貴方様はどこにいるの?何で出てきてくれないのよ。私の住まいは魂の無い里なの?

ねぇ、お願い
もう一度、逢いたい。逢いたいよ。