宇宙人が学校を侵略してしまった


「ねえ、消えたのはやっぱり!」
「消えた人達が言っていたのは私達にしたこと! 言っていなかったことは一つ!」
「そうゆうことだよな?」
「待って! 私達は関係ない!」
「そうだ! 俺は関与してなかった!」

残っていた生徒達が一斉に叫び始め、前の席に居た私達にもよく聞こえた。


え? みんな心当たりあるの? 私は一切分からないのに。
だったら、次に選ばれるのは分からない私だろう……。

……別にいっか。こんな人生、生きていても意味ないもんね。

そう思い直し、力無く立ち上がろうとすると、一人の女子生徒が立ち上がった。伊藤さんだ。

「私には分かります! だから懺悔させて下さい!」
「え?」

『ふうん。間違えたらどうなるか分かってる?』
 宇宙人は容赦なく、銃を伊藤さんに突き付ける。

「……はい」
そう言い、教壇に向かおうとする。

「やめて、言わないで! 私達のせいになるんだよ!」
「どうなるかとか分かってるの!」
「あんたはこうやって、いつも良い子ぶって! あのこと言われて迷惑だったんだから!」

残っていたクラスメイト全てが叫び出す。
何? 何があったの、このクラス!

私はやはり何も思い出せない。
どうして私だけ、何も覚えていないの?

「ごめんなさい……。でも黙っておける訳なかった! だから……!」

次の瞬間、一人の女子が伊藤さんの髪を掴み引っ張る。

「……あんたも渡辺みたいにしてやろうか?」

その言葉に伊藤さんは明らかに表情を歪める。
震えた体は、より震えていた。

「ちょっと!」

私が間に入ろうとすると、消えた。
その女子だけじゃない。私と伊藤さん以外全てのクラスメイトが消えてしまった。
『どうやら気付いたみたいだね? でも態度が悪いなー』

私達は顔を合わせて唖然とする。残ったのは二人になってしまった。

「大丈夫?」

私は思わず駆け寄る。

「うん。これぐらい渡辺さんに比べたら……」
「ねえ。渡辺さんって誰?」

「え?……渡辺さんはあなただよ」
「私?」

……そういえば、私はクラスの記憶がないどころか自分のことすら分からない。名前も年齢も素性も。

私は、窓に薄っすら映る自分の姿を見る。
髪は短い、ベリーショートってやつ?
それはオシャレとしても、地味な顔をしていると思う。
次に自身を見下ろす。制服は着崩したりはしていないみたいだ。我ながら、垢抜けてないと分かる。

……ただ両親のことは覚えている。優しくて、いつも私のこと大事にしてくれていた。


『さてと残りは二人。君は気付いているみたいだし、終わりとしようか?』
「……はい」

伊藤さんは教壇に立ち、何かを言おうする。
しかし、私を見て顔を伏せた。なんかその目は、私に負い目があるように感じた。

「伊藤さん嫌がってるよ! そんな無理矢理言わせることないじゃない!」
私は思わず口に出していた。
この状況でも、なんか嫌だった。嫌がる人に、嫌なことを強要するなんて……。

『大人しく聞け!』

そう言ってきた宇宙人を、私は睨む。
こんなの、嫌なことしてくる奴らと同じだ。このクラスの奴らと同じだ。

……あれ? そうだ。私、何か嫌なことされていたよね?

ドクン、ドクン、ドクン。
何かを思い出そうとし、私の心臓が激しく鼓動を打つ。
侵略されて、この感覚は初めてだった。

「渡辺さん聞いて。お願い……」
「伊藤さんが良いなら……」

私は大人しく聞くことにした。

「このクラスの悪は渡辺さんをいじめていたこと。クラスの全てがそれを傍観していたこと。……渡辺さん、ごめんなさい」

伊藤さんは泣きながら私に謝ってきた。

「……え?」

その瞬間、私は記憶の一部を取り戻した。
そうだ、私はこのクラスでいじめにあっていた。

「……いや、だからって、そんなつまらない理由の訳ないよ! 宇宙人が来てるんだよ! 早く、当てないと……!」

私は慌てて、訂正を促してしまう。
どうしてだろう。他の人はどうでもいいけど、伊藤さんに危害がいくのは嫌だった。


『正解ー! よって君だけは助けてあげる。約束だからね!』

その瞬間、閉ざされていたドアは開き、宇宙人達は銃を下ろして腰につがえた。

何言っているの? このクラスの問題が私に対するいじめ?
そんなことの為に、宇宙人達が地球にわざわざ来て、日本の一つの高校を侵略したの? 意味分かんないだけど!

私は、ただ唖然とした表情をしてしまう。