小学校の頃に受けた道徳の授業を思い出した。

気球が重さに耐えきれず、生き残るために自分の持つ何かを徐々に捨てなければいけないという授業。

それは、「人に愛されること」とか「人と話すことができること」とか。

昔の僕はそんなものには目もくれず、生きるために必要ないとそうそうに切り捨て「食べ物」とか「キレイな空気」とか。そんなものばかりを残していた。

でも、その時の僕とは真逆の事をしている女の子がいたのも覚えてる。

その子は食料やら空気やら水やらを先に捨て、
僕がすぐに捨てたようなものを大事に手元に残していた。

僕は
「それじゃあすぐに死んじゃうだろ。馬鹿だなぁ」
と言ったが、女の子は
「それでもいい」
とだけ言って、それにおもしろくないなと感じていたと思う。

だけど、今になってあの子が言っていることがわかった。

妻に。
娘に。
両親に。
親友たちに。
たくさんの人に僕は囲まれてやったわかったのだ。

独りで死ぬより、たくさんの人に愛されて、悲しまれて。大勢の人に囲まれて息を引き取ることほど嬉しいことはなかったのだ。

その事に、今際の際に感じることが出来て良かった。

僕は、子供と妻の手を握られ、安らかな顔で息を引き取った。