青い空、薄い白い雲、濃いピンクの桜の花びら。そして、胸には小さな赤い花と、この手には筒状の入れ物に入った卒業証書。

「理沙! 写真撮ろう!」
「うん!」
亜美、真美、奈々。三人と一緒に写真を撮る。

進路はみんな違うけど、卒業旅行の約束していて、三ヶ月に一度は会おうと話している。
楽しい高校生活を送れたのは友だちと、キッカケをくれたセンパイのおかげ。
あんな形で別れてしまったけど、あの優しさは本当だと分かっているから、出会えた事も付き合えた事も後悔していない。

そしてもう一人、私を支えてくれた人 ……。

「理沙先輩」
「速水くん」

「少しお話しよろしいですか?」
「…… うん」

私達が人が少ない校門外に歩いて行くと、三人は笑いながら(はや)し立ててくる。
私は「違う」と否定しながら、歩いて行く。

「卒業、おめでとうございます」
「ありがとう」

この状況、前にもあった。中学校の卒業式の時も、こうやって二人で話したな。

「せ、せ、先輩 ……。」
「うん?」

「す、す、好きです! 俺が来年卒業したら、お付き合いして下さい!」
「はあ?」
思わず、間抜けた声が出る。何故来年なんだい? 文学少年。

「俺は、まだ十七歳です!あと一年高校生です! ですから十八歳になって、高校を卒業したら、お、お、お付き合い ……」
どこまでも、頭が硬くてマジメな男の子。その体は震え、頬は赤面していた。


あれから、一年。今、私は心から笑っているけど、あの時は当然辛かった。
センパイに別れを告げた後に泣き、未練に引きずられてまた泣き、楽しかった思い出に泣き、裏切られていた現実に泣いた。
それを支えてくれたのは亜美、真美、奈々、そして速水くんだった。
センパイに別れを告げた後、子供のように大声で泣く私に胸を貸してくれ、聞く方がウンザリしそうな話を毎日聞いてくれ、思い出のカフェや、ショッピングセンターや、センパイと出会った橋に一緒に行ってくれ別の思い出に変えてくれた。
橋の下の川で遊び、またお約束のように速水くんと一緒に転けて全身びしょ濡れになって、水のかけっこしたのは、あの日のデジャブみたいで笑ってしまった。
今では、全ての場所が楽しかった思い出に変わっていた。


「言っておくけど、私は面倒くさいよ!」
「知ってます!」

「否定してよ!」
「すみません!」

「速水くん。 …… 私は ……」
「分かってます! 必ず振り向かせてみせます! だから返事は一年後にお願いします!」

私は、その言葉にポカンとする。
どうやら、おっちょこちょいなだけでなく、相当な鈍ちんのようだ。

分かったよ、頭が硬い文学少年。一年後の君の卒業式の日に、私はこの桜の木の下で返事をさせてもらうから、とことん振り向かせてもらおうじゃないの。
言っておくけど私も一途な石頭だから、ほどほどにしないと大変なのは速水くんだからね?

「じゃあ、まず卒業祝いにあの浜辺でカフェオレご馳走してくれる?」
「喜んで!」

濃いピンクの桜の花びらは風に吹かれて揺れる。まるで、私たちを優しく見守ってくれているかのように ……。