いつも通りの陽介の態度は、自分がどんな感情を藍に向けていたのかまったく気づいていない証拠だ。もし自覚があったら、きっともっと動揺していたに違いないと皐月は思う。



 なるべく不機嫌を顔に出さないようにして、皐月は二人に近づく。

「陽介、古典の教科書貸して」

「古典? 部室だ。次の時間?」

 読んでいた雑誌を片付けながら、陽介が聞き返した。

 だいたいの教科書は、部室に置きっぱなしだ。部室棟までは少し距離があるので、次の時間だと急がなければならない。



「あ、私教室にあるから貸すよ」

「ううん、6時間目だから、あとで取りに行ってくる。陽介、勝手に持っていくね」

 そう? と首をかしげる藍をわざと視界に入れないようにして、皐月は陽介の隣に並ぶと一緒に図書館を出る。