親密そうな二人の姿を見て、皐月は穏やかではいられなかった。

 声をかけようと一歩踏み出した時、藍が陽介に顔を近づけて何かを囁いた。それを聞いた陽介が、困ったような顔で笑う。

 その顔を見て、皐月はひゅっと息をのむ。


 おだやかに藍を見つめるその視線。そこに含まれる微妙な感情に、皐月は気づいてしまった。

 自分は、一度もそんな視線を陽介に向けられたことがない。


(陽介……)

 皐月が動けないでいると、予鈴が図書館に響いた。陽介と藍もそれを機に立ち上がり、近くにいた皐月に気づく。ぱ、と藍が破顔した。

「皐月ちゃん」

「よ。皐月もいたんだ」