「とれるものならとってみれば、って聞こえましたよ」

「そんなつもりないわよ」

「とか言って、絶対あっちにはなびかないって自信があるんでしょ」

「……ある程度は。だって、あの唐変木の一番近いところにいるために、どれだけ私が努力していると思ってるのよ」

 ぷう、と皐月が頬を膨らませる。百瀬はそれを見て笑った。


「そうよね。宇津木君もそういうところわかってくれればいいのに、ホント鈍感なんだから。しかも、ああいうことさらっとやっちゃうからなー」

 他の男子がやったら、女生徒をおぶって保健室に連れていくなんてひやかされて大変だろう。けれど陽介なら誰もそんなことは言わない。怪我した人を心から心配していることを知っているからだ。


「でも、とりあえず宇津木君が名前で呼ぶのは皐月だけだし、彼の相方は皐月だって周知されてるんだから」

 ばん、と百瀬に肩を叩かれた皐月は、眉をひそめて複雑そうな声で言った。


「名前で呼び合うのは、今は私だけじゃないけどね」

 は、と百瀬は何かに思い当たって口を閉ざした。

 その時、チャイムが鳴って数学教師の大谷が教室に入ってきた。皐月は陽介の伝言を伝えるべく百瀬から離れた。



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