「でも、皐月がいるからなあ」

 陽介は時々そんな風に注目を浴びるが、決まって最後はその台詞で終わる。皐月は、笑って言った。


「そんなんじゃないわよ」

「だって、宇津木君が名前で呼び合う女子なんて、皐月だけだもん」

「宇津木君、誰にでも優しいけど皐月ちゃんには特にだよね」


 陽介の幼なじみである皐月は、今でも仲が良くてよくこんな風に言われる。それは、陽介の性格もあるだろうが、皐月がわざとそう振る舞っていることも無関係ではなかった。

 ちなみに、当の陽介は全くそんなことには気づいていない。


「小学校からのただの腐れ縁よ」

 一応そんな風に言ってみるが、皐月としてはそのままでいる気はなかった。

「なら、私狙っちゃおうかな」

 あながち冗談ではない目で、女生徒の一人が言った。

「いいんじゃない? がんばってみれば」

「余裕ですね、奥さん」

 隣からこっそりと百瀬が囁いた。