藍の事では、陽介は新しく知ることばかりだ。以前は、顔と名前くらいしか知らなかった。

 けれど今、おそらく夜のおとなしい藍を知っているのは自分だけだ。そう思うと、なんだか陽介は愉快な気分になる。

「なのにすごい馴染んでいるよな。それで」

 
 がたん!!


 突然、何か倒れる音と悲鳴が聞こえて、二人は教室内を振り返った。

 視線の先には、女生徒が一人倒れている。その周りには、椅子や机も倒れている。どうやら、さっきまでボールで遊んでいた連中とぶつかったらしい。


「うわっ、ごめん!」

 ふざけていた男子たちが、あわててその女生徒を起こそうと近寄った。

「いたああい……」

 立とうとした女生徒は、顔をしかめてその場に座り込んでしまう。

「赤羽さん、大丈夫?」

「足? 痛いの?」

 まわりにいた女子が赤羽を取り囲んだ。

「どこかけがしたのか?」

 保健委員である陽介は、席を立って赤羽の横に膝をつく。諒が、隣に倒れていた机をどかした。

 彼女は、痛そうな顔をして足をさすっている。


「足……ひねった、みたい」

 ボール遊びをしていた男子二人も、その横に座り込んだ。