部屋に入った陽介は、カバンをかけると制服を脱いだ。ふと、部屋の片隅に立てかけてある望遠鏡が目に入る。

「自分の人生か……」

 今の選択が正解かどうなのかは、まだ陽介には判断がつかない。そもそも、正解なんてあるんだろうか。


 夏休みにバイトをしたいと言った時、最初両親には反対された。夏季講習と両立させると約束して許してもらったが、結局休み明けの試験は散々だった。

 ただ。そうやって手に入れた望遠鏡で星を見た時、想像以上に胸が震えた。

 人に与えられたものではなく、自分の力で手に入れたもの。

 今選んでいる進路を進んだ時、同じように胸を震わせることができるのだろうか。


『実際に自分の目で見たものだから』

 陽介の頭の中に、そう言った白いワンピース姿の少女が浮かぶ。


(そういえば、今夜も来るのかな)

 やはり女性が一人で夜中に来る場所ではない。そこに藍が一人で来ているかと思うと、陽介の方がそわそわしてしまう。

(今度、ちゃんと話してみよう)

 着替え終わった陽介は、カバンから空になった弁当箱を出すと部屋を出た。



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