「おかえり。なに、お母さんに小言もらった?」

「ただいま。こないだのテスト、成績落っちゃって」

「ふーん。またお姉さまが勉強みてやろうか?」

 にやりとして言った香織の言葉に、陽介の顔がひきつる。


「姉さん、スパルタだからなあ。行き詰ったらお願いするかも」

 陽介の答えにうなずいた香織は、真面目な表情になると階段の手すりにもたれて聞いた。

「でもさ、あんた本当にこれでいいの?」

 陽介は一瞬きょとんとしてから、香織の言いたいことがわかって苦笑する。


「医者になるのは嫌じゃないよ」

「ふうん」

 目をすがめて香織は続けた。

「まあ、あの父さんと母さんを説得するのは大変だろうけどさ。なにせ、医者以外の職業をとことん見下してるもんね。でも、陽介の人生は陽介のものなんだから、後悔しないようにちゃんと自分で進路を選びなさいよ」

 ぽん、と香織は陽介の肩をたたいて降りて行った。陽介はうん、と小さく返事をすると、階段をあがる。