「陽介」

 陽介が帰宅すると、リビングから母親が呼んだ。静かなその声に、陽介は気づかれない程度のため息をつく。


「なに? 母さん」

「ちょっと来なさい」

 おとなしくリビングへ入ると、ソファーに姿勢正しく母親が座っていた。その前のテーブルには、朝陽介が置いていった成績表が置かれている。

「そこへ座りなさい」

 陽介は、母親の目の前に座る。


「この成績は、なんなの」

 きつい口調は、問いかけるものではなく叱責だ。

「ごめん、ちょっと勉強がおろそかになった」

「だからバイトなどやめろと言ったでしょう」

「もうやめたよ。次の期末は大丈夫」

「そうでないと困るわ」

 母親は、ため息をつきながら成績表を開いた。