「そんなにすぐには戻ってこられないって知っているから」

 藍がいなくなってから、二年が過ぎた。木暮と連絡を取る術もないので、今の藍がどういう状況のなのかは全くわからない。あの家にも、今はもう誰もいない。

 それでも、陽介は待っている。藍が、陽介の前に現れるのを。



「余計な事だったな」

 諒も、柔らかく笑った。

「いや。だからさ、独り者の前で、幸せをみせつけてくれんなよ」

 陽介がわざとおどけて言うと、諒はけらけらと笑う。

「どーしよっかな。でもさ、皐月って、付き合った相手と人前でいちゃいちゃするタイプに見えるか?」

 陽介は、しばし考える。



「ないな。むしろ見てみたいな」

「だろ?」

 二人で出かけた時に、時折皐月が甘えるような言動をし始めたことを、諒は言わない。それは、諒と皐月二人だけが知っていればいいことだ。皐月の性格からして、陽介であろうが誰であろうが、人目のある所でいちゃつくとは思えない。



「さてと」

 諒は立ち上がる。