ホテルの部屋では、他の女子たちが修学旅行最後の夜を満喫していた。楽しそうな雰囲気の中で、一緒に騒ぐ気分にはなれなかった。百瀬たちが気遣ってくれるのも申し訳なく、飲み物を買いに行く、と言って部屋をでてかれこれ一時間ほどここでぼんやりとしていた。

 こうしている間にも、どこかの公園で陽介と藍は二人で星を見ているだろう。胸を締め付けられる痛みはしくしくと感じるが、皐月が感じているのはそれだけではなかった。



「コーヒー、もーらい」

 皐月の手で冷めてしまったコーヒーが、ひょいと持ち上げられる。

「諒」

「こんなところにいつまでもいると、体冷えるぞ。ほら」

 そう言ってコーヒーのカップの代わりに渡されたのは、温かいココアだった。

「どうしたの、こんな時間に」

「ん? コーヒー飲みに来た」

 言って皐月の隣に座ると、冷たくなったコーヒーをすする。皐月も、取り替えられたココアを、一口飲んでみた。

(温かい)

 それでようやく皐月は、自分の体が冷え切っていたことに気づいた。

 しばらくは、二人とも黙ったままだった。