そんなことを考えながら陽介がスマホを確認すると、諒から先に帰ると連絡が入っていた。

「平野たちに、藍も一緒だって伝えてくれるって」

 連絡手段を持たない藍は、彼女たちに連絡するすべがない。突然走り出してしまったから、心配しただろう。



「さ、帰ろう」

 そう言って陽介が手を出した。しばらくそれを見つめていた藍は、ぎこちない様子で、その上に自分の手をそっと乗せる。その様子に、陽介はわずかに目を瞠った。

 今まで藍が、男女問わず誰とでも気軽に手を繋いだり腕を組んだりしてきたのを陽介は見てきた。今の藍のように、はにかんだようなしぐさを見せたことは一度もなかった。



 陽介は、藍の中で自分に対する気持ちが確かに変わっているのを感じた。藍が何にこだわっているのかはわからないが、今はただ、ひんやりした藍の手を握っているそれだけで満足だった。

 

 藍は、染まった頬でことさらそっけなく言う。

「駅までだからね」

「はいはい」

 それきり言葉もないまま、二人はゆっくりと細い道を歩いていった。



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