「なんだよ、俺と一緒じゃ安心できないのかよ」

「え、そんな意味じゃないよ」

 あせったように慌てて言った藍に、ふ、と陽介が笑う

「わかっているよ。からかっただけだ」

 ぷ、と藍が頬を膨らませる。

「もう。意地悪」

「ごめん。そんな顔もかわいいな」

 か、と頬を染めて、藍が困ったような怒ったような顔になった。そんな風にまた普通に話せることが、陽介は嬉しかった。

 そこで、は、と気づいて、陽介は腕時計を見た。



「あー、集合時間すぎちゃったな」

「え! どうしよう」

 藍も、あわてて自分の時計を確認する。ホテルに戻って点呼を行っている時間は、とっくに過ぎていた。



「先生には、俺が謝っとくよ。俺が引き留めちゃったんだし」

「ううん、私も逃げるようなことしちゃったんだもん。一緒に怒られるよ」

「いや、いいよ。俺が追いかけたんだし」

「でも、私だって」

 言い合って見つめあうと、二人で同時に笑い出す。

「わかった。じゃ、二人で一緒に謝りに行こう」

「うん」

 涙を拭いて笑った藍は、久しぶりに見るいい顔をしていた。

(やっぱり、かわいいなあ)