おびえたように体を丸くしてうつむく藍に、陽介は自嘲する。

「これじゃ、俺、藍にもっと嫌われちゃうな」

 その言葉に、弾かれたように藍が顔をあげる。

「嫌ってなんか……!」

 そこで言葉を止めて、藍は唇をかみしめた。

「嫌いになったから、ずっと俺から逃げてたの?」

 静かな陽介の声に、藍がふるふると首をふる。



「なら、どうして……って、聞いてもいい?」

「だって……陽介君といると、私……止められなく、なっちゃいそうで……」

「止められない? 何が?」

「私、こんな気持ち、持っちゃいけないの。だめなの」

「どんな、気持ち?」

 ぎゅ、と藍が目をつぶった。

「教えてよ」

「……私……今の、私が、誰かを……好きに、なんて……」

 陽介が大きく目を見開いた。



「なんで、だめなの?」

「私は、私じゃないから……私は……偽物、だから……」

 藍の言葉は、陽介には理解できなかった。ただ、苦しそうな藍を見ているのはつらかった。だから陽介は、自分にできる一番優しい声で藍に言う。

「俺にとって藍は藍だよ」

 陽介を仰ぎ見た藍の顔が、くしゃりと歪んだ。