「あー……そうですよね。患者って、苦しんでいる『人』なんですよね」

「医者だろうが養護教諭だろうが、医療関係は誰かを救いたいという思いを持つものが就く職業だ。まずその気持ちが持てない者には、そもそも医療に就く資格はないと私は考える。ただ職業としての医者になりたい、は目標であっても目的ではないだろう」

「ですよね」

 陽介は、ふと思いついて木暮を見返した。



「先生も誰かを救いたいと思って医者になったんですか?」

 木暮が言葉につまった。が、すぐににやりと笑う。

「いるじゃないか。目の前に悩める高校生が」

 陽介はきょとんとすると、次の瞬間笑い出した。

「なるほど。相談に乗ってくれてありがとうございます」

 そう言って陽介は立ち上がった。



「では、明日よろしくお願いします」

 ドアを開けて出ようとしたところで、陽介は立ち止まって振り向いた。

「先生」

「なんだ」

「さっきの言葉、訂正します。先生は、ちゃんと立派な養護教諭ですよ」

 また無表情に戻っていた木暮は、ぱたり、と目を瞬くと、小さく言った。