「提示金額は、ドナーの皆様ご自身に決定していただきます」
気付けば技術のある県立病院へと足を運び、才能提供者としての適合検査を受けていた。
そして、二度目の来院となった今日は「問題ありませんでしたよ」と検査結果を聞かされた流れで、『アビリティー・フォー』というサイトの説明を受けていた。
問題ないということは即ち、描画の才能行使に“問題がある”ということだ。同時に、ある程度の才能が認められたということでもある。
どちらも、なんだか可笑しな話だ。思いながら、正面で和やかに微笑む、スーツ姿の女性を見据えた。
「それと、朝倉さんは未成年ですので、保護者の方の承認も必要となります。次回はご同行可能でしょうか?」
彼女の首からぶら下がっているIDには、市の紋章が刻まれている。おそらく、この病院には『才叡法』を管轄する市の担当者が常駐しているのだろう。
分かりました。と俯いたまま言って、保護者情報を空欄のまま、サイトID発行の依頼書に情報を書き込む。相変わらず紙を滑らせている感覚はなく、それが今は心を落ち着けた。自分の判断は決して間違っていないということを、証明してくれるように思えたからだ。
それに、来月には十八になるのだから、未成年問題はあってないようなものだろう。
薄い手袋を両手に装着し、個室を後にする。扉が閉まる寸前、女性の柔和な笑みに会釈を返すと、冷たい風が一瞬だけ背を冷やした。換気のためか、院内の端にある小窓が少し開いている。
「ねえ——なんで、あんたがここにいんの?」
すると、小窓に注いでいた視線が、強引に方向転換させられる。
「ここ、外科じゃないんだけど」
目を疑った。片腕を掴み、自分の方へ視線を向かせるその強引さは、彼女に備わっているものだと納得が出来る。けれど、目の前に立っているのが石川臨未だと納得するまでには、時間がかかった。
「聞いてんの?」
「き、聞こえてます……」
凄んだ瞳に吸い込まれそうになって、後退る。それでも、左腕をがっしり掴んだ彼女の握力は弱まらない。
「まあいいや。とりあえず、ここ出よ」
「え?」
「私、ここの元患者なの。てゆーか、今現在でも別の用事で常連なの。だから居心地が悪いの」
早口で言い終えた彼女は、目を少し吊り上げたまま掴んだ腕を引く。僕は抗う術もなく、病院の外へ連れ出された。
もう正午近くなのに、朝から気温が上がっていないように思える。病院の前に立つ少女の、剥き出しの脚が寒々しい。雪のように白い肌から視線を持ち上げると、彼女は静かに唇を割った。