寵愛を受けて、子を産む。妃嬪には大事なことだが、皇后はそれだけではとても務まらない。むしろそれだけなら、ほかの妃嬪たちに任せておけばいいのだ。
皇后にはもっと大きな役割がある。皇帝を補佐、ときには叱咤激励しながら正しい道を歩かせねばならない。加えて後宮の管理も皇后の仕事だ。兵士を率いるのは上下関係、褒美と罰が肝要と言われる。これも簡単なことではないがある意味、わかりやすい。対して、女の園というのはもう少し複雑で人間関係が奇妙にねじれる。これを統率することは一師団を率いるに匹敵するだろう。

「宮持ちの妃はまぁそれでもよい。毒にも薬にもならぬ女が一番いいまである」
 焔幽はたしかに女が嫌いなのだろう。女性に対する物言いがいやに辛辣だ。
「だが、皇后と三貴人はそうもいかぬ。適切な人材を配置したいのだ」

(この人には……妃嬪を愛そうという心が露ほどにもないのですね)
 あきれと親近感。どこか複雑な思いで香蘭は彼を見つめる。
(かつての私もそうでした)
 臣下は国民は、完璧な君主というものを夢見る。美しく正しく、決して間違えない。自分たちよりはるかによい暮らしをして強大な権力を得ているのだから、民がそう望むのは当然の権利で君主には応える義務がある。
(けれど、完璧は人間らしさの対義語ですからね)