「リザ」

「はっ」

「いや、名前を呼んだだけで、そんな嬉しそうな顔しないで……」

「魔法使いさんに名前を呼ばれると、なんだか凄く嬉しくなってしまうんです……」


 相続した魔法図書館を継ぐ決意の固まった自分なら、きっと誰もが認める魔法司書になることができるかもしれない。


「声が綺麗だからでしょうか……」

「リザの声も綺麗だよ」

「心臓が痛いです……」

「え!?」


 姫に永遠の眠りを贈ろうとした魔法使いは、その後も大切に大切に育てられた。

 呼吸するのも苦しくなってしまうほどの愛情を注いでもらったおかげで、今も自分の犯した罪の重さに押し潰されそうになりながら生きている。はずだった。


「え、あ、医療魔法は専門外で……」

「心臓が物凄く速く動いています……」

「リザ、しっかり! 気を確かに!」


 これは、呪い持ちの姫が自分に呪いをかけた魔法使いに会いに行くための物語。


「やっぱり、魔法使いさんに名前を呼ばれると心臓が……」

「…………」


 これは、一国の姫に呪いをかけた魔法使いが呪い持ちの姫に恋をした物語。


「ニコライズ」

「え……?」

「僕の名前は、ニコライズ」

「…………ニコライズさん」


 これは、呪い持ちの姫と呪いをかけた魔法使いが愛を育てていく優しい優しい物語。