「もっともっと魔法を開花して、将来的には魔法使い様と空中を一緒にお散歩……」

「魔法使い……様……?」


 乱雑に置かれた本たちが視界に入ると、どうしても胸が締め付けられるような感覚を受けてしまう。

 それが日常茶飯事で、それが僕の日常で……。


「目の前にいらっしゃるのが魔法使いさんで、幼い頃に私の面倒を見てくださった魔法使い様が魔法使い様です」


 本の傷みや苦しみに気づくことから、逃げたいと思っていた。

 亡くなった祖母に、大切にしてきたものがあったことを忘れたいとすら思ったことがある。


「私は、その魔法使い様に会いに行きたいと思っていて……」


 そんな感情が存在していたのは確かなことなのに、認めたくなかった感情を受け入れるのは怖いことではない。

 彼女の表情が、彼女の声が、彼女の言葉が、未熟な僕のすべてを励ましてくれる。


「あ! 魔法使い様と特別な約束をしているわけではないんですけど……」


 大切な女の子が傍にいてくれることが、こんなにも心強い気持ちをもたらしてくれると思わなかった。


「そもそも、安否の確認をしなければいけなくて……」


 泣きたい。

 泣かないけど。

 泣きたい。

 泣きそうに、なっている。


「あ! お金が大切なのもそうですが、魔法使いさんの……この図書館も大切に育てていきたいと思っているのも本当のことで……」


 もしも祖母が生きている頃に彼女を紹介することができていたら、祖母は安心して僕に図書館運営を任せることができたかもしれない。