「はぁ」


 魔法図書館は、魔法の力で管理される図書館。

 どんなに太陽光が差し込んできても、どんなに潮風が吹き付けてきたとしても、本は魔法の力によって守られる。

 本が傷まないように、本が安心して人の元に渡っていけるように、魔法司書は本に対して気を配る。


(……祖母が亡くなってから、何年放置されたんだっけ……)


 僕は、足元に落ちている1冊の本を拾い上げる。

 床に散らばっている本は1冊だけでなく、それはもう数えきれないほどの量が散在している。


(……ごめんなさい……)


 祖母が魔法図書館を運営していることを知っていたら、図書館がこんなに寂しい場所になってしまう前になんとかできたかもしれない。


(そんな、もしもの話を思い浮かべてはみるけれど……)


 そもそも、祖母が魔法図書館を運営していたことを知らなかった。

 そして、その事実を知ったところで、幼い日の僕はリザと別れることができたのか……。


(どっちにしても、自分のせいで呪い持ちになってしまったリザの傍を離れることはできなかったかもしれない……)


 一国の姫に呪いをかけた魔法使いなんて死罪が妥当なところなのに、僕が国から突き放されることはなかった。

 ちゃんと理由があってのことだったと、聞く耳を持ってくれた。

 別れが来る最後の日まで、僕の手を離さないでくれた。


(その人たちのために、尽くしていきたかった……)


 祖母が亡くなった日は、空に雲1つない晴天の日だったらしい。


(太陽の光で、本が焼けている……)


 祖母が天国に旅立つ日が晴れた青空だったなんて、祖母はある意味祝福されていたのかもしれない。

 だけど、残された本たちにとっては、あまりにも辛すぎる旅立ちだった。


(紙の質も……真新しい本とは、ほど遠い……か……)


 カーテンが全開のまま、祖母は僕たちが生きる世界を離れていった。

 それは、太陽光が容赦なく本たちを照らすことを意味する。