「こほっ」


 本以外の管理が行き届いていない図書館の中は埃塗れといっても過言ではなく、一国の姫だったリザはあまりの不衛生な環境に咳き込んでしまった。


「ごめん、至らない管理人で……」

「カーテンと窓、開けますか?」

「お願いします……」


 リザは僕の了承を得ると、魔法図書館に入り込む光を遮っていたカーテンを魔法ではなく自分の力を使って開けていく。

 魔法でできることとできないことを把握しているあたり、僕と別れたあともしっかり魔法の勉強をしていたんだろうなってことが窺える。


「空を飛ぶ魔法は、僕がコントロールするから」

「箒で空を飛ぶのは好きなのですが、自分の力では飛ぶことができないんです……」


 宙を飛び交う本とぶつからないように高さある天井を楽々と飛んでいくリザの姿を見ていたら、魔法が滅びるなんてなんの冗談なのかと思ってしまう。


「思いっきり飛んでいいよ」

「楽しみます」


 昔は、魔法使いが空を飛ぶ光景なんて珍しくもなんともなかった。

 けれど、今は時代が違う。

 飛行機のような大きな機体が空を飛ぶ時代。

 今では逆に、魔女が箒を使って空を飛ぶ方が珍しくなってしまった。


(一国の姫様に、空を飛ばせるわけにはいかないからなー……)


 箒で空を飛びながら、手では届かない高さの窓やカーテンを開いていく様子は魔法が使える僕から見ても圧巻だった。 


「さてと……」


 リザの空を飛ぶ技術に目を奪われながらも、次に自分がするべきことを見つけようと視線をさ迷わせる。


(この本たちの修復……あと何十年かかるんだろう……)


 本来なら魔法図書館は、光り輝くような綺麗な感情を提供しなければいけない。

 でも、この魔法図書館は時を止めてしまった。

 辺境の地にある魔法図書館への来訪者もいないこともあって、祖母の命が終わると同時に図書館の命も止まってしまった。

 そんな事実を痛感させられるような光景が、魔法図書館の運営を相続して数年が経過した今も目の前に広がっている。