(仕事しよう……)


 机に伏せて眠るのが日常茶飯事となって、早数年。

 昔は、姫が机に伏せて眠るなんて行儀の悪いことだと注意する側だったはずなのに。

 今では姫に顔向けできるような生活を送っていない自分が情けなくもあって、そういう生き方が楽だなと思う自分もいて……なんだか毎日がよく分からない。


「…………」


 久しぶりに大切な姫の夢を見たせいか、今日は感傷的になってしまっている。

 辺境の地でもあり、巨大な大森林の奥にある魔法図書館を尋ねてくる人物なんて滅多にいない。

 それなのに、どこかからかすかな魔力の気配を感じる。


(国の監査か何か……)


 今日の予定がどうなっているかも、正直よく把握していない。

 国に仕えていた頃と比べると随分体たらくな生活を送っていると自覚はあるけれど、そういう生き方をしても支障がない。

 それが、こういう毎日を招いてしまった。


(姫に顔向けできないとしても、もう会うこともない……)


 だったら、どんな生き方をしてもいいのかもしれない。

 姫の婚約を機に、自分を咎めながら生きることを卒業しろと誰かが言ってくれているのかもしれない。


「…………」


 再び感傷的な想いに浸って時が流れに身を任せてはみたものの、感じた魔力が近づいてくる気配がまったくない。


「…………」


 感じた魔力は止まったまま。

 
(まさか、遺体!?)


 誰かが僻地に遺体を投げ捨てていったのかもしれない。

 起きている事態を確認しようと思って外に出ようとすると……。


「え、開かない……」


 なぜか、魔法図書館の扉を開くことができなかった。