快晴。
普段感じる鬱陶しさを全て打ち払ったような、際限のない空。

「絶好のライブ日和じゃん」

「さすが颯音は晴れ男だね」

 本番直前、機材の最終確認。

「設営は颯音の専門学校で同級生の方々がやってくれたんだっけ、本当に頭が上がらないよ」

「ライブ後にお礼を言いに行こう、お土産も何もないけどその分最高のライブにしよう」

 それぞれが高校時代と同じ楽器を手にする。

「そういえば詩って社会人になってギターとか弾く時間あるの?」

「なかなか無いかな、歌は口ずさむくらい」

「まぁそんなもんだよな、俺も全然ベースに触れてなくて」

「琴葉くらいじゃない?保育系ならピアノとか触れる機会ありそう」

「そうだね、当時ほどではないけど結構頻繁に触ってるかな」

 それぞれの世界を生き始めていた僕達がもう一度出逢えたことは、奇跡なのかもしれない。
社会人、専門学生、大学生、音楽なんて頭にも過らないほど忙しい日々の中で呪いのように残り続けた記憶は、きっとその時間が欠けがえのないもので、尊かったことの証明。


『そろそろステージ袖に移動お願いします』


 高校時代、聴くことのできなかった始まりの合図。
楽器を置き、幕の裏へ駆け、顔を見合わせる。

「ステージ前に一言ずつ残していかない?」

「そういうの憧れだった、じゃあ颯音から」

「僕は心の底から、このメンバーとバンドが好き。好きなんて言葉じゃ足りないくらい。結弦、琴葉、詩、三人が仲間で本当によかったと思ってる、あとは盛大にやろう。本当にありがとう」

「じゃあ……次、結弦」

「俺は……このバンドを組んでなかったら音楽を辞めていたと思う、俺はこのバンドに人生を変えてもらった。それくらい想い入れのある場所、本当にありがとう」

「琴葉、話せる?」

「私は、正直このバンドに居続けていいかわからなくなった時があったの。でもそんな不安すら超える好きが詰まってる場所だった。あの時叶わなかった夢を、今叶えさせてくれて本当にありがとう」

「最後、詩」

「私はこの中で唯一すぐに社会人になったけど、ここまで熱くなったの高校生ぶり。思ったことを本音でぶつけて、心から揺さぶられる、この四人だから味わえた感覚だよ。本当に大好き、楽しもう、会場を湧かせよう」

 円陣を組む、伝わる温度と震えは確かな命の鼓動。
開演まで数十秒、一生に一度の特別を叶える瞬間が幕を開ける。