「厳しい冬の寒さの中にも、春の訪れを感じることの出来る季節となりました――」
卒業生代表挨拶、在校生代表挨拶、校長の挨拶……と式は退屈に進んだ。
「皆さんの前には、真っ白なキャンパスが広がっています――」
出席番号順に並んだ列で、わたしの位置だとほぼ全員を把握できる。
3年生の代表は、全く記憶にない男子生徒だった。部活動や学校行事のエピソードてんこ盛りの内容で、幾人かの卒業生の涙を誘う。
「コロナ禍という、世界的にも困難な状況で入学し、常に右往左往していた僕たちを支えてくださった先生方、保護者の皆さま――」
泣いているうちの1人は、露骨に鼻を啜る音が大きく、芝居めいていた。
誰が強制するわけでもない嘘泣きゲーム。
……これだ。わたしが十八歳の3月に卒業式に参加しなかった理由は。
わたしは、嘘が嫌い。
表面だけ取り繕うようなお世辞も、無理に振りまく愛想も、芝居めいた喜びも、嫌い。
小学校のも、中学校のも、卒業式と名のつくものにはうんざりさせられた。
中学の時なんて、卒業生代表がマイクの前で泣き崩れて過呼吸になったほどだった。
たかが卒業式で、そこまで泣けるだろうか。全く共感できず、わたしは自分の座席で吹き出してしまった。
その瞬間、周りから刺さる白い目。
あげく、担任に卒業式後引っ張り出され、説教まで食らった。
『あなたには人の心がないんですか』
ひどい言い様に、十五歳のわたしは決意した。
もう一生、卒業式なんて、学校行事なんて、参加しない、と。
卒業式なんて、嘘泣きイベント。
だから2年前の3月13日、わたしは家から一歩も出なかった。
でも、二十歳になったわたしが、ほんの少しだけ人より高いところからこの状況を俯瞰して、どこか違和感を覚え始めていた。
確かに泣いている子のほとんどは演技めいている。
だけど、どういうわけか、決して悪くはない。そんな気がする。
どうしてなのだろう?
その理由が知りたくて、卒業生の背中を目の動きだけで端から端まで見渡す。
画一的な、セーラー服に学ラン。
……あ、と気づく。
これは絶対に今通っている大学じゃ見られない光景なんだ。
みんなで同じ服装をするのは、人生で今日が最後なんじゃないか、と。
みんなで一斉に同じ服装をして、同じ授業を受けて、決められた通学路を通る――そんな生活はこれが最後だ。
だとすると、みんなそろって同じ嘘をつくのも、決して悪くはないのではないか?
背中を眺めているうちに、ふとそんな気分になった。
卒業生代表挨拶、在校生代表挨拶、校長の挨拶……と式は退屈に進んだ。
「皆さんの前には、真っ白なキャンパスが広がっています――」
出席番号順に並んだ列で、わたしの位置だとほぼ全員を把握できる。
3年生の代表は、全く記憶にない男子生徒だった。部活動や学校行事のエピソードてんこ盛りの内容で、幾人かの卒業生の涙を誘う。
「コロナ禍という、世界的にも困難な状況で入学し、常に右往左往していた僕たちを支えてくださった先生方、保護者の皆さま――」
泣いているうちの1人は、露骨に鼻を啜る音が大きく、芝居めいていた。
誰が強制するわけでもない嘘泣きゲーム。
……これだ。わたしが十八歳の3月に卒業式に参加しなかった理由は。
わたしは、嘘が嫌い。
表面だけ取り繕うようなお世辞も、無理に振りまく愛想も、芝居めいた喜びも、嫌い。
小学校のも、中学校のも、卒業式と名のつくものにはうんざりさせられた。
中学の時なんて、卒業生代表がマイクの前で泣き崩れて過呼吸になったほどだった。
たかが卒業式で、そこまで泣けるだろうか。全く共感できず、わたしは自分の座席で吹き出してしまった。
その瞬間、周りから刺さる白い目。
あげく、担任に卒業式後引っ張り出され、説教まで食らった。
『あなたには人の心がないんですか』
ひどい言い様に、十五歳のわたしは決意した。
もう一生、卒業式なんて、学校行事なんて、参加しない、と。
卒業式なんて、嘘泣きイベント。
だから2年前の3月13日、わたしは家から一歩も出なかった。
でも、二十歳になったわたしが、ほんの少しだけ人より高いところからこの状況を俯瞰して、どこか違和感を覚え始めていた。
確かに泣いている子のほとんどは演技めいている。
だけど、どういうわけか、決して悪くはない。そんな気がする。
どうしてなのだろう?
その理由が知りたくて、卒業生の背中を目の動きだけで端から端まで見渡す。
画一的な、セーラー服に学ラン。
……あ、と気づく。
これは絶対に今通っている大学じゃ見られない光景なんだ。
みんなで同じ服装をするのは、人生で今日が最後なんじゃないか、と。
みんなで一斉に同じ服装をして、同じ授業を受けて、決められた通学路を通る――そんな生活はこれが最後だ。
だとすると、みんなそろって同じ嘘をつくのも、決して悪くはないのではないか?
背中を眺めているうちに、ふとそんな気分になった。