駅に着くとすでに同級生たちでごった返していた。学校指定のコートがホームにも改札の外にも渋滞していて、すでに非日常に片足を突っ込んでいる感覚だ。
 だらだらと学校へ向けて進む列。
「うちら同じ大学行けるね!」「卒業旅行のスキー、参加するよね?」なんていう、この時期としては周囲をピリつかせかねない言葉を平気で叫ぶ女子もそこかしこにいる。
 卒業式の日ってこんな感じだったんだ、知らなかった。

 ここにいる誰もかもが、本当のわたしより2年年下だと思うとおかしな気分だ。
 みんな若い。

 その証拠に、十八歳にしか出せない種類の、青臭い感慨の欠片がそこかしこに飛び交っていて、みんな今か今かと泣くタイミングを興奮しながらうかがっていた。

 この浮ついた集団の空気がどうしても苦手で、やっぱり来なければ良かった、と思わず引き返し掛けたとき、肩に手が置かれた。

「良かったー、渡辺さんは来ないかもって思ってた!」

 丸顔に、冬でもよく焼けた肌。
 この顔はまだ覚えている。

「木戸さん……一応、来ようと思っただけだよ」

 この子はいわゆるコミュ力おばけタイプだったよな、と思い出す。
 そうか、わたしは『卒業式に来なさそうな子』って認識されてたんだ。
 今になって自分の第三者から見た客観像を突きつけられた気分だ。

「珍しー! 文化祭も体育祭も乗り気じゃなかったからさ。あ、これ嫌みじゃないからね」

 確かに高校時代は学校行事にまるっきり乗り気じゃなかった。
 遊びに参加するくらいなら、受験勉強していたい、っていうちょっと痛い人間だったのだ。

 学校へ向けて歩を進めながら、

「ちなみにさ……結果、聞いても大丈夫?」

木戸さんが一段トーンを落として、慎重に問いかける。
 最初、何のことだかピン来ずにいたが、思い出した。
 そういえば、国立大学の合格発表はこの数日前だったのだ。

「無事、合格してた。木戸さんは?」

 対するわたし側は、木戸さんがO大学に合格したということくらいは知っていたので、遠慮することなくそんな言葉を口にできた。こういうとき、タイムリーパーは気を遣わなくてすむから有利だ。

「やったじゃん! T大学かぁ、すごいなぁ。わたしも受かってたよー」

 今通っている大学の名前は、世間では尊敬と憧憬の的だった。
 けれど、そこに通うことが日常と化した今となっては「すごい」と言われても「そうかな」くらいにしか思えない。
 周りはわたしよりもっともっと優秀だから。
 そんなことはおくびにも出さず、おめでとうと木戸さんを称える。

 ちなみにこの年、うちの高校から最難関大学と言われるT大学に合格したのはわたしを含めてたったの2人だった。
 しかもわたし以外のもう1人は、結局合格はしたものの他大学へ進学してしまった。

 うちの高校は中堅大学への進学率が高いから、結果、大学に入ってから知り合いが一人もいないという状況だった。
 でもかえってそれがわたしにとっては快適で、やっぱりこの高校はわたしにとって居場所じゃなかったと再び実感する。

 十八歳だろうが、二十歳だろうが、苦手なものは苦手だ。
 ほんの少し、2歳分だけ世界の見え方は変わったけど……。

 5回目にして初めて参加する2年前の卒業式。
 参加するのは、この期に及んでも、ちょっと怖い。
 どんな顔してあの場所にいればいいのだろう?