無機質なアラームの音が鳴る。
 スマホをタップして、わたしは大きなため息をつく。

 今朝も、2023年3月13日を迎えた。

 今日は――いや、今日も、わたしが3年間通ったM高校の卒業式。
 この卒業式は一体わたしにとって何度目の卒業式なのだろうか、指折り数えてみる。

 人生で5回目の2023年3月13日だ。

 やはりわたしはループしている。それもすでに4回も。

 残念ながらスマホの画面も、テレビの画面も、新聞の朝刊も、全てその残酷な事実をわたしに告げていた。
 どうして何度もこの日をやり直さなくてはいけないのだろう?
 神様は一体どうしてわたしにこの日を何度もお与えになるのだろう?

 誰にも打ち明けられない問いを宙に投げつけて三十分後。
 本当は二十歳のわたしは、懐かしのセーラー服に体を通し、家を出るのだった。





 本当のわたしの『今』は、二十歳の大学2年生。2025年を生きていた。
 つまりわたしは2年前の世界――十八歳の3月に戻ってきている。

 まだまだ寒い朝のホームで電車を待ち、通学電車に乗り込む。
 マスクを着けている人の多さに「やっぱりここは2023年3月なんだ」と実感する。
 確か、新型コロナウイルスが5類扱いになるのは、この年の5月。
 みんな学校へ行くにも会社に行くにも、マスクを着けるのが「ニューノーマル」だった頃の世界は、むさ苦しかった。

 電車の窓に映るわたしは、本当のわたしよりも少し若くて、なのに少し疲れた顔をしている。
 この数日前に大学受験を終えたんだっけ。
 入試当日にコロナになりませんように、と祈りながらの毎日は、けっこうなストレスだった。

 卒業式なんて形だけの空虚なイベント。友情ごっこの世界だ。
 みんな卒業式では嘘泣きばっかりするんだ。
 それで自分は学校が大好きなリア充だった、ここを離れるのは寂しくて仕方ない、とアピールしあうのだ。
 数週間後にはケロッとした顔で「大学デビュー」するくせに。

 それに、卒業したって会いたいことはどんなことが会っても会うし、会いたくない人とは在学中でも卒業後でも関わらない。
 ただの通過儀礼を、涙で飾り立てているだけだ。

 そんな中身のないイベントを5回も味わわなければいけないなんて、苦行だ。

 にも関わらずわたしは――5回目の卒業式を迎えてしまった。

 わたしは考えた。
 なぜもとの時間軸に戻れないのか。
 結論としては、これしかありえなかった。
――時を操る神様からの、『卒業式にちゃんと行け』というメッセージなのだ、と。

 だからわたしは5回目にして『初めて』行く。
 高校の卒業式に。
 リアルタイムの十八歳の時も、3度タイムリープした時も出席しなかった、高校の卒業式に。