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 私たちは今、ユートピアに数多(あまた)ある遺跡の一つに来ている。ユグドラシルの炭化を遅らせる効果のある秘宝の欠片を探すのが今日のミッションだ。
 私たち五人は、最初みんなで一緒に探していたのだけど、魔物がそんなに多くないのと、なかなか見つからないのとでそれぞれバラバラに探していた。

 地下にある遺跡内は真っ暗なので、アイテムの松明を壁に置きながら進んでいく。石造りで壁には何か模様が刻まれていて、エジプトのなんとか文明とかに出てきそうな雰囲気を醸し出していた。
 
『なんか、それっぽいのあったー?』

 ナオミの呼びかけに方々から『ない』と声が上がる。本当に、魔物がちょいちょい出てくる以外、それらしいものが何一つ出てこない。

「この遺跡で合ってるんだよねぇ?」
『そこからかよ』
『それはちゃんと確認済みだから、大丈夫だよ』

(さすが……まとめ役のつかさ。頼りになる)

 ホーム設立者である私と猫太のいい加減さが際立つのはもはや気にしていない。みんなそれぞれ得手不得手があるから、欠点を補い合いながらやればいいんだと割り切っていた。

『依頼書には、遺跡の奥深く光が途絶えた先に求めし者の前に現るるって書いてあるね』

 ご丁寧にミッションの指示書を読み上げてくれた大福にみんながお礼を口にするも、そのすぐ後には唸り声しか聞こえてこない。

「光が途絶えるって、行き止まりってこと?」
『まぁ、その可能性が高いけど……、さっきから行き止まりなんて一個もないよ』
『あたしも同じくー』

 そう、道は何度も分岐を繰り返しているのに、ただの一度も行き止まりに当たったことがなかった。延々と道が迷路のように続いている。

「そろそろ松明がなくなりそうなんだけど」
『だからちゃんと多めに作っておけって言ったろ』

 私の独り言に、すかさず猫太が突っ込みを入れてくる。

「うるさいなぁ、足りると思ったんだもん」
『あ、僕沢山あったから分けてあげればよかったね』

 ごめんね、と申し訳なさそうに大福が言った。

「大福優しい……。誰かさんとは大違い」
『漱石は、地道な作業が好きじゃないもんね』
「そうそう、これだから遺跡とか洞窟のミッションは嫌い」

 不貞腐れていると、つかさが『まぁまぁそう言わないで』となだめてくれた。

『このミッションって、ユートピアで十個しかないミッションだからきっと難易度高いのかも』
「えっ、十個? そんなに少ないやつよく当たったじゃん!」
『おっまえなぁ……ホント人の話聞いてねぇよな……』

 どうやらその話は既出だったらしく、ため息とともにそう言われた私は、返す言葉がなかった。

 ユートピアのミッションは、数に限りがある。それぞれの必要数やストーリーの設定に合わせた数が用意されていて、数が少ないものは先着順や抽選で決まることが多い。
 今回のミッションは、きっと秘宝の欠片が全部で十個しかないということだろう。

 なるほど、その少ないミッションなら今日中に見つけるのはもしかしたら難しいかもしれないなと思い始めた。
 そうこうしているうちに手持ちの松明が底を尽きてしまった。

(こんなことならもっとしっかり準備してくるんだった……)

 なんて後悔しても時すでに遅し。
 松明を持って歩くことはできないので、私は最後の松明を置いた所から少しだけ先に進んでみた。松明から離れるにつれて暗さが増していき、とうとう視界が真っ暗になってしまう。

(戻るしかないかー)

 松明を回収しながら戻って別の経路を探すしかなさそうだ、と踵を返したその時――

 ――ギギギイ……

 石と石が擦れ合う音と共に視界が明るさを取り戻した。その突然の眩しさに目をつぶる。

「な、何……」

 光に慣れてやっと目を開ければ、そこには緑があった。
 ここは地下で、光の届かない場所なのに……。
 その開いた扉の向こうに足を踏み入れると、木々が生い茂り、太陽の日差しが降り注いでいた。しかし、上を見上げても眩しいだけで、空や太陽が見えるわけではない不思議な空間だった。

 そして目の前には、まるでこっちに来いと言わんばかりに一本の道がひらけている。

「ね、ねぇ、なんか森見つけたんだけど……」

 その道を進みながら、みんなに呼び掛けた私の声は森に吸い込まれて静寂となる。

「ちょっとみんな? 無視しないでよ」

 誰一人、反応してくれなかった。
 マイクもスピーカーもオンになっているのに聞こえないということは、機器の故障かゲーム内のバグか。まぁ、どっちにしろ仕方がないので私はそのまま先に進む。

 魔物が出てこないか注意をしながら歩いていくと、目の前にまた扉が現れたのでそれを開け放ち中へと入る。こじんまりとした部屋の中央にある台の上、キラキラと光る何かが浮いていた。

「もしかして、これが欠片? わぁっ」

 手を伸ばしてそれに触れた瞬間、目を開けていられないほどの眩い光で部屋中が満たされる。

 ――ピコン

『……――をゲットしました』

 やっと目を開けられた頃には、画面に表示されていた文字は消えかけていて、アイテム名を読み取れなかった。インベントリを開いてチェックするも、新たにゲットしたアイテムに付くはずの「new!!」マークの付いたアイテムはどこにもなかった。

「ええーっ! なんで?」

(ゲットしたはずなのに……。今のが秘宝の欠片じゃなかったの?)

 どこかに落ちているかも、と辺りを見回したけど、それらしいものはなにもなく、私はがっくりと肩を落とす。最近ミッションで失敗続きでホームに貢献できていなかったから一発大逆転できると思ったのに……。いくらみんなが優しいからといって、足を引っ張ってばかりではさすがの私だって肩身が狭いってものだ。

 泣く泣く来た道を戻り、不思議な部屋を一歩出れば、

 ――ギギギイ……ドォン……

 と、背後で扉が閉まり、再び暗闇となる。

「こっわぁ……」
『……――ん? 今の漱石の声じゃない?』
『おーい、聞こえるかー?』

 ナオミと猫太の声が聞こえた。ボイスチャットが復活したようだ。

「き、聞こえるー! よかったぁ……」

 みんなの声に安堵を覚えながら、私は来た道をダッシュで戻った。
 またしてもミッションに貢献できないどころかみんなに迷惑をかけて落ち込む私を、みんなは快く笑顔で迎えてくれた。

 ボイスチャットの不調は私だけだったらしく、みんなは無事、秘宝の欠片をゲットして入口に集まっていたのだという。

『でもさー、普通に小さな部屋の中にあっただけで、指示書意味なかったじゃんね』

 秘宝の欠片を見つけたナオミ曰く、普通に進んでいたら辿りついたのだという。ミッション指示書にあった「光が途絶えた先」というのはなんだったのか、とみんな首をかしげていた。

『確かに……、限定十個のミッションにしてはあっけなかったね』
『まー結果オーライということで今日はこれで解散しよーぜ!』

 猫太の〆の言葉に私も「うん、そうだね」と返事をしつつ、頭にはさっきの事が浮かんでいた。
 あの部屋のあの光と、私がゲットしたはずの消えたアイテムはなんだったんだろうか。
 ボイスチャットは本当にただの故障かバグだったのだろうか。
 答えは見つからないまま、私はみんなと一緒に遺跡を後にした。