*
ぷかぷかと宙に浮いたそれは、ユートピアの案内役キャラクター・ゆっぴいだった。
『っふー! 生き返ったぁー!』
黒猫のフォルムを丸っこくした、とても可愛らしいアバターで、グッズ販売もされているユートピアのアイドル的存在の彼は、チュートリアルやイベント発生時などにちょいちょい登場する。
普段、ゆっぴいは「はじまりの広場」という、初心者が最初に行く場所にいる存在で、質問したり、初心者が次にやるべきことを教えてくれる指南役だが、私たちのように独り立ちしたプレイヤーにとってはそこまで関りはなかった。
ぐーんと両手を高く上げて伸びをするゆっぴいを、私も二人もぽかんと口をあけて見上げる。思いもよらぬ存在の登場に思考がストップしていた。
『ほほう、期待以上だな』
顎に、ピンクの肉球のついた丸っこい手を添えて、ゆっぴいは私をなめるように見た。
(なんだろう、可愛いはずなのに、すっごいいやな視線に思えるのは……)
『ここまでシンクロ率を上げてくるとは、余程ユグドラシルの欠片との相性がよかったんだな』
「シンクロ率? ユグドラシルの欠片……?」
『そうだ。お前、ミッションで拾っただろう。お前からぷんぷん匂うぞ』
「そんなもの、……」
拾ってない、と言おうとした私は、記憶の中にそれらしき出来事を見つける。
(確か、遺跡でのミッション中……)
不思議な空間に置かれたキラキラと光る何か。触れた途端に消えてしまったもの。
「あれが……?」
『な、拾っただろ』
「でも、インベントリにはなかった」
『体に吸収されるんだよ、あれは。んで、それと相性がいいほどこの世界に馴染んでく』
『馴染んでくって、あれか、コントローラー操作しなくても動かせるやつか?』
『そうだ。ユグドラシルはこの世界の全てのシステムを司る存在だからな』
ゆっぴいは、くりくりの瞳を悩まし気に目を細め『しかし』と続ける。
『悪意に侵されたユグドラシルの体の一部が、苦しみのあまり自我を持って暴走してしまった』
『自我が暴走って……、それは、このゲームのシナリオのことなんだよね?』
その言葉に、大福を振り返る。これがゲームだということを、自分が忘れかけていたことに驚いた。それを忘れるくらい私は没頭してしまっていたのだろうか。
『いや、ユートピアはもう開発者の手を離れておる。ユグドラシルは自我を目覚めさせこの世界を管理し、俺さまもユグドラシルの手によってシステムから独立していた』
(していた、って……)
その意味深な言葉尻を拾うべきかどうか考えていれば、『なんで過去形なんだよ』と猫太が代わりに突っ込んでくれたので、私は黙っておく。
『さっき言った暴走した自我――マリスがシステムを書き換えたせいで我々は一部のアクセス権を失っている。そして、マリスに支配される直前にユグドラシルが作ったのが、このミッションだったが、俺さまはマリスに邪魔されてここに閉じ込められていたんだ。だけどお前が石板を修復したおかげか、解放された。礼を言う』
突拍子もない話に、頭がついていけない。
(これは本当に現実に起こっていること? でも、シナリオから外れていることまで含めてシナリオ内っていう可能性も捨てきれないよね?)
だけどそれを確かめる術がない今、私はゆっぴいの話を信じるしかないのだと、必死に耳を傾ける。
『この石板を修復できる選ばれし者、それはユグドラシルとシンクロできる力を持つことを意味する。それがお前だ』
ゆっぴいは、丸い短い手を伸ばし、人差し指――と思われる指から爪をむき出しにして私へ向けた。
「わ、私……?」
ぷかぷかと宙に浮いたそれは、ユートピアの案内役キャラクター・ゆっぴいだった。
『っふー! 生き返ったぁー!』
黒猫のフォルムを丸っこくした、とても可愛らしいアバターで、グッズ販売もされているユートピアのアイドル的存在の彼は、チュートリアルやイベント発生時などにちょいちょい登場する。
普段、ゆっぴいは「はじまりの広場」という、初心者が最初に行く場所にいる存在で、質問したり、初心者が次にやるべきことを教えてくれる指南役だが、私たちのように独り立ちしたプレイヤーにとってはそこまで関りはなかった。
ぐーんと両手を高く上げて伸びをするゆっぴいを、私も二人もぽかんと口をあけて見上げる。思いもよらぬ存在の登場に思考がストップしていた。
『ほほう、期待以上だな』
顎に、ピンクの肉球のついた丸っこい手を添えて、ゆっぴいは私をなめるように見た。
(なんだろう、可愛いはずなのに、すっごいいやな視線に思えるのは……)
『ここまでシンクロ率を上げてくるとは、余程ユグドラシルの欠片との相性がよかったんだな』
「シンクロ率? ユグドラシルの欠片……?」
『そうだ。お前、ミッションで拾っただろう。お前からぷんぷん匂うぞ』
「そんなもの、……」
拾ってない、と言おうとした私は、記憶の中にそれらしき出来事を見つける。
(確か、遺跡でのミッション中……)
不思議な空間に置かれたキラキラと光る何か。触れた途端に消えてしまったもの。
「あれが……?」
『な、拾っただろ』
「でも、インベントリにはなかった」
『体に吸収されるんだよ、あれは。んで、それと相性がいいほどこの世界に馴染んでく』
『馴染んでくって、あれか、コントローラー操作しなくても動かせるやつか?』
『そうだ。ユグドラシルはこの世界の全てのシステムを司る存在だからな』
ゆっぴいは、くりくりの瞳を悩まし気に目を細め『しかし』と続ける。
『悪意に侵されたユグドラシルの体の一部が、苦しみのあまり自我を持って暴走してしまった』
『自我が暴走って……、それは、このゲームのシナリオのことなんだよね?』
その言葉に、大福を振り返る。これがゲームだということを、自分が忘れかけていたことに驚いた。それを忘れるくらい私は没頭してしまっていたのだろうか。
『いや、ユートピアはもう開発者の手を離れておる。ユグドラシルは自我を目覚めさせこの世界を管理し、俺さまもユグドラシルの手によってシステムから独立していた』
(していた、って……)
その意味深な言葉尻を拾うべきかどうか考えていれば、『なんで過去形なんだよ』と猫太が代わりに突っ込んでくれたので、私は黙っておく。
『さっき言った暴走した自我――マリスがシステムを書き換えたせいで我々は一部のアクセス権を失っている。そして、マリスに支配される直前にユグドラシルが作ったのが、このミッションだったが、俺さまはマリスに邪魔されてここに閉じ込められていたんだ。だけどお前が石板を修復したおかげか、解放された。礼を言う』
突拍子もない話に、頭がついていけない。
(これは本当に現実に起こっていること? でも、シナリオから外れていることまで含めてシナリオ内っていう可能性も捨てきれないよね?)
だけどそれを確かめる術がない今、私はゆっぴいの話を信じるしかないのだと、必死に耳を傾ける。
『この石板を修復できる選ばれし者、それはユグドラシルとシンクロできる力を持つことを意味する。それがお前だ』
ゆっぴいは、丸い短い手を伸ばし、人差し指――と思われる指から爪をむき出しにして私へ向けた。
「わ、私……?」