*
『名前も知らずにどーやって探すんだよ⁉』
お前馬鹿じゃねぇの、と猫太に呆れられてしまう。
「ごもっともです……。返す言葉もございません」
三つ指ついて土下座したいくらいだった。
なんて思ったのと同時に、私のアバターはその場に正座して本当に土下座していた。視界には、ホームの板張りの床と自分の手が映し出される。
私の土下座に二人から笑いがこぼれてほんの少しだけ空気が和んだ。
『って、漱石。エモート課金勢じゃなかったよね。そんなエモート持ってたんだ?』
エモートとは、アバターの感情を表すための動作のこと。例えば、手を叩いて爆笑したり、ダンスしたり、涙を流したりと種類はさまざまあって、それらはゲーム内で購入すると使えるようになるもの。
握手やハグなど標準装備されているエモートや無料で貰えるエモートもあるけど、ほとんどは課金しなければ使えない。
私は、大福の言う通りエモートには課金はしていなかった。
「あー……それがさ……、猫太にはこの前話したんだけど、なんか最近、私コマンド打たなくても操作ができるようになっちゃって……はは」
『え……、何それなんで?』
『こいつも突然なったから、なんでかはわかんないんだってよ』
猫太の補足に私もうんうんと頷いた。ユートピアでのプレイを重ねるごとにやはりシンクロ率が上がっているようで、以前にも増してアバターが自分の体のように動くことが増えていた。
こうなる前から、ユートピアという世界で本当に生きているような感覚を覚えていた私だけど、こうなってからは、時おり現実世界とバーチャルなこの仮想現実世界の区別がつかなくなっていた。違和感を感じないどころか、こちらの世界の方が色々なことが自由自在にまるで魔法のように操れて爽快だ。
『そんなことが……?』
「うん……私も何がなんだかわからないんだけど……」
驚く大福に私はあははと笑うしかない。信じてもらえたかは不明だけど、証明したくてもコントローラーを触ってないところを実際に見せないと証明はできないからちょっともどかしい。
猫太の時のような神がかったプレイなら話は別だけど、そんな場面に出くわすこともそうそうなかった。
『本当に何もしてないのにそんなことになったの⁉ まさか漱石も永住権手に入れたとかじゃないよね⁉』
大福にしては珍しく、感情を露わにしたその声に、私は「まさか」と首を振る。
「私、裏ミッションの発動条件も知らないんだから」
『おい大福、こいつにそんな度胸があるわけないだろ』
「猫太、その言い方!」
猫太はいつだって一言余計だ。
横目で睨みをきかせつつ、私は居住まいを正して二人に向き合った。
「それでね……、二人には反対されるかもしれないけど、私、その裏ミッションについて調べようと思ってるの」
『はあっ⁉』
『えっ』
「いや、もちろん、裏ミッションをやるわけじゃないよ⁉ それこそ、私は永住権が欲しいわけでも、意識不明になりたいわけでもないから安心して? ただ、何か手がかりがつかめるんじゃ、ないか、と……思って……」
あまりにも気まずい空気に、私の声も元気がなくなっていく。だけど、啓子を見つける道はそれしかないと思っていた。本当は、啓子のパソコンを見せてもらってユーザーネームを調べようと思っていたけれど、それももう叶わない。
ユーザーネームがわからない今、六千万ものユーザーの中から見つけ出すなんて不可能なわけで……。
それなら、ここユートピアで啓子が辿ったであろう道を私も辿るしかないんじゃないか、という結論に至った。もしかしたら、何か啓子につながる手がかりが見つかるかもしれない、と。
先に口を開いたのは、猫太。
『まぁ、そうだな……名前がわからない以上、それしか手がかりはみつけられないかもな……。探っていくうちに何か知ってるやつに会うかもだし。ダメもとでやるしかないだろうな』
『そうだね……』
『そうと決まれば、早速情報収集すっかー!』
「二人ともありがとう!」
『名前も知らずにどーやって探すんだよ⁉』
お前馬鹿じゃねぇの、と猫太に呆れられてしまう。
「ごもっともです……。返す言葉もございません」
三つ指ついて土下座したいくらいだった。
なんて思ったのと同時に、私のアバターはその場に正座して本当に土下座していた。視界には、ホームの板張りの床と自分の手が映し出される。
私の土下座に二人から笑いがこぼれてほんの少しだけ空気が和んだ。
『って、漱石。エモート課金勢じゃなかったよね。そんなエモート持ってたんだ?』
エモートとは、アバターの感情を表すための動作のこと。例えば、手を叩いて爆笑したり、ダンスしたり、涙を流したりと種類はさまざまあって、それらはゲーム内で購入すると使えるようになるもの。
握手やハグなど標準装備されているエモートや無料で貰えるエモートもあるけど、ほとんどは課金しなければ使えない。
私は、大福の言う通りエモートには課金はしていなかった。
「あー……それがさ……、猫太にはこの前話したんだけど、なんか最近、私コマンド打たなくても操作ができるようになっちゃって……はは」
『え……、何それなんで?』
『こいつも突然なったから、なんでかはわかんないんだってよ』
猫太の補足に私もうんうんと頷いた。ユートピアでのプレイを重ねるごとにやはりシンクロ率が上がっているようで、以前にも増してアバターが自分の体のように動くことが増えていた。
こうなる前から、ユートピアという世界で本当に生きているような感覚を覚えていた私だけど、こうなってからは、時おり現実世界とバーチャルなこの仮想現実世界の区別がつかなくなっていた。違和感を感じないどころか、こちらの世界の方が色々なことが自由自在にまるで魔法のように操れて爽快だ。
『そんなことが……?』
「うん……私も何がなんだかわからないんだけど……」
驚く大福に私はあははと笑うしかない。信じてもらえたかは不明だけど、証明したくてもコントローラーを触ってないところを実際に見せないと証明はできないからちょっともどかしい。
猫太の時のような神がかったプレイなら話は別だけど、そんな場面に出くわすこともそうそうなかった。
『本当に何もしてないのにそんなことになったの⁉ まさか漱石も永住権手に入れたとかじゃないよね⁉』
大福にしては珍しく、感情を露わにしたその声に、私は「まさか」と首を振る。
「私、裏ミッションの発動条件も知らないんだから」
『おい大福、こいつにそんな度胸があるわけないだろ』
「猫太、その言い方!」
猫太はいつだって一言余計だ。
横目で睨みをきかせつつ、私は居住まいを正して二人に向き合った。
「それでね……、二人には反対されるかもしれないけど、私、その裏ミッションについて調べようと思ってるの」
『はあっ⁉』
『えっ』
「いや、もちろん、裏ミッションをやるわけじゃないよ⁉ それこそ、私は永住権が欲しいわけでも、意識不明になりたいわけでもないから安心して? ただ、何か手がかりがつかめるんじゃ、ないか、と……思って……」
あまりにも気まずい空気に、私の声も元気がなくなっていく。だけど、啓子を見つける道はそれしかないと思っていた。本当は、啓子のパソコンを見せてもらってユーザーネームを調べようと思っていたけれど、それももう叶わない。
ユーザーネームがわからない今、六千万ものユーザーの中から見つけ出すなんて不可能なわけで……。
それなら、ここユートピアで啓子が辿ったであろう道を私も辿るしかないんじゃないか、という結論に至った。もしかしたら、何か啓子につながる手がかりが見つかるかもしれない、と。
先に口を開いたのは、猫太。
『まぁ、そうだな……名前がわからない以上、それしか手がかりはみつけられないかもな……。探っていくうちに何か知ってるやつに会うかもだし。ダメもとでやるしかないだろうな』
『そうだね……』
『そうと決まれば、早速情報収集すっかー!』
「二人ともありがとう!」