なんで誘ってくれたのかはわからないままクリスマスイブを迎えた。
辺りはひんやりと冷えていた。
手袋をしてこればよかった。手がかじかむ。
「こんにちは」
「こんにちは! まってたよ」
いつもと変わらないいっくんの姿に安堵する。
わたしの頭の中はまだ困惑しているけど。
でも、せっかくなんだからたのしみたい。
今日のクリスマスイブは、ふたりとも抹茶が好きだから京都で抹茶巡りをすることになった。
何回かいったことある場所も相手が違うだけで違った景色になる。
好きなひとといれば、どこにいても輝いている。
「じゃあ、いこか」
「え、あ、うん?」
突然のことで素っ頓狂な声を出してしまった。
わたしの右手は彼の左手としっかりつながれていたのだ。
なんで、今日は手をつないでくれるの?
意味なんかあるわけない。期待するなと言い聞かせながらも気づいたら口角が上がってた。
「なにこれ、おいしい!」
「それな!」
抹茶のアイスやスムージー、お団子。
たこ焼きや餃子までもが抹茶で、本当に抹茶づくしだった。
はじめて食べたものばかりで、新鮮だった。
ふたりで半分こしたり、めちゃくちゃおいしかった。
デートじゃないのにデートしてるみたいに感じた。
旅館に着くと、管理人さんが和服で部屋まで案内してくれた。
窓からは鵜飼が見えたり、サギが飛んでいたり。
部屋は、和室でとても心地がよかった。
露天風呂に入るためにお互い分かれて部屋でまた合流することにした。
今日は幸せな一日だったな。
でも、なんで誘ってくれたのかは、まだわからないまま。
色々考えてたら、少し長く入りすぎたようだ。
視界がいつもよりぼやけていた。
彼の声が届くまで、自分がなにをしているかわからなかった。
「らん? 聞いてる?」
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
いつの間にか部屋に来ていた。
部屋まで歩いた記憶はないけど、きっと歩いて帰ったのだろう。
「大丈夫? のぼせた?」
なんだか急にさみしくなって、涙が頬を伝って落ちた。
泣いちゃいけないことは頭ではわかってた。
困らせるだけなんかしたくなかったけど、涙は一度溢れたらとめどなく溢れ出す。
「どうした?」
彼はいつだって優しい。
でも、それは性格であり、わたしだけに向けられてるわけじゃない。
わたしだってだれに対しても優しく接する。それとおんなじ。
「……やだった。ほんとは……ずっと、別れたくなんか……なかった」
大丈夫だよって言おうとしたのに、勝手に違う言葉が外に出た。
別れてからはじめて明確に自分の気持ちを伝えたと思う。
自分の気持ちを普段言わないから彼はきょとんとしていた。
「言ってくれてありがとう。……ごめんな」
その言葉をきいたら、余計に涙は流れ落ちる。
好きじゃなくなるなら好きって言わんでよ。
気持ちもないのに誘わないでよ。
手だって繋がないでよ。
期待だけさせないでよ。
そんなことを想いながら彼の腕の中で泣き続けた。
「……ずっと一緒にいてよ」
目を瞑って、思わず零した本音。
彼はそれに肯定も否定もなかった。
ただひたすらわたしの背中を撫でてくれただけ。
次の日のクリスマスは神社へいった。
京都にはたくさんの神社やお寺がある。
クリスマスには似合わないかもだけれど、この厳かで静かな雰囲気は安心できた。
わたしの願い事。
短い間で考え出たのは、『はやく前に進めますように』だった。
目を開けて、横を見ると、真剣になにかを願っている姿が目に入った。
このまま目を開けないでいてくれたら、ずっと視ていられるのに。
「なにを願ったの?」
気になって訊いてみた。
「言ったら叶わなくなるんやで」
内緒、と言わんばかりに教えてくれなかった。
「それもそうだね」
気になったけど、これ以上の詮索はやめよう。
わたしに関する願い事の可能性はゼロに等しいのだから。
「え、まって、それ食べるの?」
衝撃で開いた口が塞がらなかった。
昼ごはん。
彼が食べていたのは、すずめの丸焼きだった。
「おいしいから」
「ええ……」
怯えるわたしをおもしろそうに見ながら、口に運んでどんどん味わう。
付き合っていたときは知らなかった表情だった。
でも、新たな一面をみれたようで、うれしかった。
「らん。あのさ……」
別れ際、ふいにわたしのことを呼び止めた。
「あー昨日はなんかごめんね! 迷惑かけちゃって」
あはは、と適当に誤魔化す。
なにか言われる前にわたしが言葉を紡ぐ。
なぜだろう。いま、嘘みたいに、心がすっきりしている。
昨日、言いたいことを言ったからかな。
「俺のほうこそ、ごめ……」
「ちがうよ! 誘ってくれてうれしかった。ありがとうございました。たのしかったよ。
わたしはいまでもいっくんのこと想ってるけど、復縁したいとか言わないよ。安心してね」
「……」
彼は、なんとも言えないような表情で見入っていた。
「じゃあ、また!」
すべて、本心だった。
はじめてだれかと過ごしたクリスマスは、友だちでもなく、恋人でもなく、好きなひとだった。
それは、幸せなことだと想う。
言いたいことも言えたから、帰ろうと歩き出そうとすると、腕を掴まれる。
「まって!」
「ん? なに?」
「ゆらんの気持ちは正直言ってめちゃくちゃうれしいよ。
クリスマス誘ったのは、好きの感情関係なく、だれかと過ごすならゆらんがいいなと思ったから。
手は特別な日だから繋いだ。でも、それがゆらんを苦しめてたならそれはごめん」
「……そんなことないよ!」
精一杯愛想笑いをした。
そんなことない。
たしかに苦しかったけど、それはわたしの気持ちの問題。
たのしかったのはほんとなんだから、たとえそら笑いでも笑顔で終わりたかった。
帰りの新幹線の中、イヤホンから音楽さえ流さず、世界から音を消した。
すると、時がゆっくりのどかに流れていくのを感じた。



