『やっぱり花火いくか?』
ふいに震えたスマホに届いたメッセージ。
花火大会。
それは付き合っていたときに一緒にいくことにした約束。
もうとっくに破棄されたと思っていだけどいっくんはちゃんと憶えていた。
お友だちとしていく場所なのかはわからなかったけど、せっかくだしいく選択をした。
もしかしたら、吹っ切れるのかもしれない。
でも、そんな軽々しくいくもんじゃなかった。
「久しぶり! 元気だった?」
「うん!」
別れてからはじめてあったときに比べて気まずくはなかった。
メッセージにやり取りが一日に数件でも続いていたからだろうか。
久しぶりの彼は前とまったく変わらなくて。
それが余計に胸を締め付ける。
わたしの好きな心地よい声が響いていた。
「んーチョコバナナやっぱおいしい!」
屋台がたくさん並んでいたからさっそくチョコバナナを購入。
バナナが嫌いな彼は嫌そうにこっちを窺っていた。
「よくそんなの食べるな」
「え、おいしいよ! 食べてみる?」
「え?」
彼の困った顔にしまった、と思った。
つい彼女みたいな発言をしてしまった。わたしたちはただのお友だちなのに。
「……ごめん。なんでもない」
慌てて謝る。
一気に空気感が変わり、気まずくなった。
お互いが違う方向を向いていた。
もうなにやってるんだろう、わたし。
それから無言で花火がみえる川岸に向かった。
そこには大勢の人がたくさんいてはぐれないようについていくのが精一杯だった。
もちろん、手は繋いでいないのだから。
花火を観る場所を確保し、座り込む。
「あれからどう? なんか変わった?」
彼がどういう気持ちで訊いてきたのかはわからない。
きっと近況報告のつもりだっただろう。
でも、勝手に口が開いていた。
「……変わんない!」
「え?」
「いまもこの想いは初恋のまま! 変わらないよ!」
驚いたのか、どんな顔していたのかは暗くてよくわからなかった。
少し経ったあと「……ありがとう」とそれだけ零した。
花火大会が終わると一緒にいってくれたお礼のメッセージが入っていた。
それからわたしの想いに対する明確な断りも。
『ごめんけどもう好きになることはない』
『お互い新しく恋人ができても友だちとして仲良くしよ』
このメッセージをみてある決意した。
視野を広げることを。
学校のお友だち、バイト先の人たち、ネッ友の子たち。
年齢も関係なしにすべてを恋愛対象として視野を広げた。
このままじゃいけないと思ったからだ。
ずっと彼のことを追い続けていいわけがない。
実らない恋に去ってしまった彼に時間を使う必要は悲しいけどもうない。
はやく彼の存在を心の中から消さなければ。
「最近らんちゃんよく返信してくれるね」
「たくさん話してくれてうれしい」
「通話できてたのしかったよ」
ネッ友の子たちはこういってくれた。
わたしだってたくさんのひとと話すのはたのしかった。
でも……。
「結蘭ちゃんとはじめて話したけど印象変わった!」
「これからも話しかけてよ」
「また一緒にゲームしたい」
学校のお友だちもこういってくれた。
わたしだって普段話さない子と話すのはいい刺激になった。
なのに、なのに。
なんで比べてしまうんだろう。
なんでより一層彼のことばかり考えてしまうんだろう。
他の子と話せば想いが消えると思った。
消えなくとも気にならなくなると思ったのに。
「なんで……消えてくれないの」
放課後、だれもいない教室でひとり蹲る。
「大丈夫?」
上から降ってきた声のほうに視線を上げると太陽くんの姿があった。
「あ、うん。大丈夫だよ」
勝手に喉から顔を出した言葉。
我ながらなんて説得力のない大丈夫なんだろうと思う。
事情を話すわけもなく視線を落とす。
「あのさ……俺、園芸部だから、花の水やりしてるんだ。よかったらくる?」
心配そうに聞こえた声に無言で頷き、ついていく。
太陽くん。部活入っていたのか。
意外だった。
そういえば、はじめて会話したときも花壇だったな。
そこにはきれいなハイビスカスの花がたくさん並んでいた。
学校の裏にこんなとこがあったなんて。
「はい、これ。あげるよ」
「しおり?」
手の中にあるのは赤色のハイビスカスの栞だった。
はじめて男の子からなにかをもらって、どうすればいいかわからなかった。
そんなわたしをお構いなしに太陽くんは淡々と説明していく。
「ハイビスカスって一日花だからどんどん新しい花を咲かせるんだ。
それでこんなにきれいなら少し形にして残しておきたいなと思って作ったんだ」
「そーなんだ。……ありがとう」
素直にうれしいと思ったのに笑顔が上手につくれなかった。
そんなわたしに彼は、少し悲しそうにする。
「ハイビスカスの花言葉は”新しい恋"」
「え?」
「結蘭ちゃん最近よく男子と話してるからなんか恋に進もうとしてるのかなって」
「……」
違ったらごめんだけど、と笑って付け足し、彼は穏やかに微笑む。
「俺は……結蘭ちゃんが新しい恋に進めるお手伝いがしたい!」
「……ありがとう」
にっこり笑うと彼も笑顔を返してくれた。
それがなんだかすごく心に染みて泣きたくなった。
わたしはなにをやっていたんだろう。
新しい恋に進むために、他の異性と話していたわけじゃない。
ただ、いっくんに対する気持ちを消すためだけに。
だから、太陽くんの応援をまっすぐに受け取れなかった。